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更新日:2017年7月26日

ガバナンス(2011年8月1日発行)

ガバナンス(2011年8月1日発行)に掲載された記事の転載です。

震災に克ち、日本全体の発展に貢献できる県に

東日本大震災で東北3県に次ぐ被害を受けた茨城県。相当の被害規模にもかかわらず、茨城県は一日も早い復旧・復興はもとより、経済活動を通常に戻すことにも全力を注ぐ。橋本昌知事は震災に打ち克ち、「日本全体の発展に貢献できる県にしたい」と先頭に立つ。

災害発生時にはスタート時点で、できるだけ多くの情報を収集・発信することが最も大事だ

1年以内に元の姿に戻したい

-東日本大震災では茨城県の被害も相当大きかった。

 茨城県では死者・行方不明者が25人、一部損壊を含めた家屋の被害が約16万戸に上った。日本政策投資銀行の推計によると、被害額は福島県の3・1兆円に対して茨城県は2・5兆円で、福島の8割程度。地震保険の支払額は、6月末現在で福島県が1338億円に対して、茨城県が1301億円。わずか37億円しか違わない。非常に大きな被害を受けているが、それでも致命的な被害を受けた県民、企業は東北3県と比べると少ない。
 我々としては、少しでも早く日常生活を取り戻せるよう被災者支援と同時に、道路や港湾などインフラの早期復旧にも力を入れ、県民生活や経済活動を一日も早く通常ベースに戻すことに意を用いてきた。被災地だということをあまり強調していると企業の営業活動などにも支障が出てくる。茨城県は震災で大きな被害を受けたが、一方で大変早いスピードで復旧しつつあることを示したい。

-国の支援のあり方には苛立ちも感じるのでは?

 地元が何を必要としているかをきちんと政府が理解・把握し、被災地支援を行ってもらいたい。被害が大きすぎたのでやむを得ない面もあるが、国の支援のスピードはきわめて遅い。例えば、震災から4か月が経過してもまだ災害査定が本格化したばかりだ。地方自治体を信用して、一定額以下の被害については県の判断に任せることも十分に考えられるのではないか。今回のような大規模災害の場合、国交省など政府の職員がたくさんいるといってもそれだけでは間に合わない。
 私は1年以内に茨城県をほぼ元の姿に戻したい。茨城県では10年度補正予算で約72億円、今年度補正予算ですでに約1434億円を組んでいる。しかし、国の方針が具体化していないので動けない部分がある。国は第2次補正予算に続いて、秋には第3次補正予算を組むと思うが、その中で相当程度のことは解決できるようにしてほしい。
 例えば鹿島港には震災で砂が入った。ここでは東京電力の火力発電所を再稼働させることになっており、その燃料確保のためには、大至急砂の浚渫を行う必要があった。440万kWという大きな発電量であり、これが稼働できなくなったら首都圏の夏は電力不足で大変な状況になるということで、76億円という多額の工事費にもかかわらず、国も迅速な対応をしてくれた。このような対応をぜひお願いしたい。

 

風評被害で苦慮

-震災発生後、県では迅速に被害状況などの発表をしている。

 地震・津波に加え、原子力災害があった。例えば水道水を飲んでいいのかどうかという住民からの問い合わせに、市町村長も対応に苦慮した。
 そこで県からすぐ市町村に情報を連絡すると同時に、ホームページに掲載することにしたので自ずと発表回数は多くなった。記者会見も頻繁に行った。災害発生時にはスタート時点で、できるだけ多くの情報を収集・発信することが最も大事だ。

-茨城では、東京電力福島第一原発事故による風評被害も大きかった。

 茨城には日本原子力発電の東海第二発電所があって、放射能の計測体制は整っていた。しかし、いったん起きた風評被害を払拭するのは非常に難しい。一般の国民は、検査すること自体を問題があるからではないかととらえがちで、いくら安全な数値が出ても、数値が出たことで危ないと思ってしまう。一方では、検査していない農産物が何の問題もなく流通してしまう。どういうかたちでどのくらいの品目を検査するかは非常に悩ましかった。本来であれば、国が基準を決め、全国的に検査を行い、この野菜は出荷停止するが、他は安全だといった形で発表すべきだ。

-風評被害の補償のあり方は?

 風評被害を受けた立場に立って、どこまで補償されたら満足できるか、という視点が重要だ。損害を被ったら、その分を補償してもらうのは当たり前。迷惑をかけた分については、全部補償すべきだ。そうしなければ、迷惑をかけられた上に、損をさせられることになるので迷惑を被った人は納得しない。
 国の原子力損害賠償紛争審査会の議論などをみていると、どこで補償の対象・非対象の線を引くか、どうやって補償額を減らすかの議論ばかり。そうではなくて、迷惑を受けているものを幅広く検証した上で、補償の範囲や額を決めるべきだ。また、実際に補償を求めるのは一部であり、個人で営業している人などの多くは恐らく損害賠償を求めてこない。水面下に請求されもしていない大変多くの被害があることを忘れないでもらいたい。

 

エネルギー問題は、全体をとらえて議論すべき

-自然エネルギーの普及と原発の行方についての考えは?

 エネルギーの確保は、国にとっての大問題だ。エネルギー全体をとらえて議論していくべきだ。そのときに、原子力と自然エネルギーを対極的に考えるのはおかしいのではないか。仮に原発を減らすとなると、化石燃料による部分の割合を増やさざるを得ない。すると地球温暖化問題などと絡む。どのくらいまでCO2の増加を許容できるのかどうかも含めて考えていかなければいけない。ただ、いずれにしても、原発がこれから増えていくことは考えられない。
 日本の原発は高経年化、経年劣化した施設が多くなっている。米国のように使用期間を延ばすことが、今回の事故を機に日本では難しくなっていく。それらを考えると、自然エネルギーは、これからいやでも力を入れていかなければいけない分野だ。
 太陽光については、先般、県内企業が約7ha(パネル設置面積)を使ってメガソーラーを設置した例などもあるが、茨城県内の住宅用太陽光発電は全国15位。風力発電は最近急速に増え、いま全国で8位。神栖市で1万4000kwの洋上発電を行っている企業もある。バイオマス発電も1か所で4万1000kw発電している企業があり、全国で4位の発電量だ。こういった自然エネルギーは、固定価格買取制度の導入などにより、今後間違いなく普及していくが、一方で、供給の安定性や供給量が限られているといった重要な問題も抱えている。

-国から浜岡原発の停止やストレステスト(耐性調査)が急に出された。

 総理の決断の根拠を聞いても何ら答えが返ってこない。政府内での十分な議論もなく、結論だけがボーンと出されるのは大いに問題だ。浜岡原発については、「30年以内に東海地震が起こる確率が87%」が根拠として挙げられているが、今回の東日本大震災は確率が0・0%とされているのに起こった。87%と突出しているから浜岡だけが危険だとは言えない。他の地域でもいつ地震が起きるか分からない。
 ストレステストについてはEUが今回の福島第一原発事故を踏まえてスタートさせている。そういったこともあるのだから、安全宣言を行う前に、ストレステストを行って「テストをやって安全と確認できたので、玄海原発を再稼働させていただきたい」と説明すればよかった。これから行うとなれば、どこの自治体もその結果をみてから判断しようということになる。

-原発事故では、「想定外」という言葉が流布した。

 原子力関係者は、自信を持ちすぎて、他人の言うことに耳を貸さなくなったことが一つの問題だと思う。日本の技術は最先端だ、ではなくて他の国から謙虚に学ぼう、と取り組んでいれば、もう少し違う結果になったのではないか。 JCOのとき(99年の東海村JCO臨界事故)もそうだったが、事故にはある程度、人為的なものもある。原子力について本当に安全な体制はどうやれば実現できるのか。立地自治体はいま津波対策に目がいきがちだが、原子炉の構造自体に問題はなかったのか。それらも含めて、どういう状況になれば安全だと地元の首長が自信を持って住民に説明できるかどうかが一つの大きなポイントだ。

 

地方に権限、財源を渡せばできる

-震災では小規模自治体が大きな被害を受けた。

 現場対応は、最も実情が分かっている市町村がやっていくのがいいと思う。ただ、被害を受けて十分な対応ができないところもあるので、そこは県が人的、物的支援を県内全体のバランスを取りながらしていかなければいけない。今回、日頃からしっかり避難訓練を実施していた市町村は被害が少なかった。県内でも大洗町は、早めに警報を鳴らし、迅速に避難したことで津波による死者を一人も出さずにすんだ。
 被害を免れた教訓や、災害発生から復興までの動きを十分検証し、今後の対策に活かしていく必要がある。

-復旧・復興財源などをめぐり、分権の推進にも微妙な影響を与えかねない動きがある。

 大震災には現在の県の規模よりも大きくなければ十分な対応ができないから道州制にすべき、と主張する人もいる。しかし道州になり、仮に仙台に東北州の州都があったとして、岩手から福島まで十分な対応ができたかといえば、そうとは思えない。逆にいまの規模だから適切な対応ができているのではないか。
 本気で国が権限、財源を地方に渡せば、現在の都道府県の規模でも地方分権はしっかり実現できる。瓦礫の処理だって、一部の壊滅的被害を受けた市町村を除けば、財源をきちんと手当してもらえれば地方でできると思う。
 今回の震災が、地方分権のあり方に与える影響はさほどないのではないか。いずれにしても地方分権は、総理の相当なリーダーシップがなければ進まない。民主党政権は地域主権改革が「内閣の一丁目一番地」といい、昨年6月に閣議決定した地域主権戦略大綱では、地方税財源の充実もうたっている。ところが実際には、社会保障と税の一体改革という一番肝心なところで地方側の福祉関係の予算は、地方が勝手にやっているのだから財政需要としてとらえる必要はないと主張していた。看板は非常にいいが、具体にやっていることは、どちらかというと国主導の面が強くなっているのではないか。

-最後に、地方が自立していくために必要なことは?

 税財源の偏在を考えると、財政面を含めた「完全自治体」は難しいのが現状だろう。ただ、国が徴収した税財源を配分するときに、もう少し客観的な基準で配分できるようにして、地方側が国に気を使わずに税財源を確保ができるようにする必要がある。そのことで自立に一歩進むことができる。
 それと、それぞれの自治体が、自分のところの果たすべき役割を意識しながら、地域経営を行っていくことが重要になる。地方の自立のためには区域の広さより、自治体や住民が一体感を持って、考えながら地域づくりをし、活力を維持していけるかにかかっている。
 茨城県の場合は、東京にも近く、つくばや東海に最先端の科学技術もある。日本が世界の中で、これからもきちんとした地位を維持していけるよう、現在、産出額全国2位の農業、製造品出荷額全国8位の工業をさらに伸ばして、日本全体の発展に貢献できる県にしていきたいと考えている。

 

 

 

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