最新ビジネスリポート
赤字に悩む中国航空業界   6/98

 中国では昨年9月に航空券の割引販売が認められるようになったことから、日本と同様に格安チケットが市場に出回るようになった。中国航空業界は中小の航空会社が乱立し激しい競争が繰り広げられていただけに、それ以後各社とも乗客確保のため値下げ競争に走りだした。国内路線によっては原価割れをしても客を奪おうと正規の価格の4割引、5割引で販売され、最大6割引の航空券も現れるなど、市場秩序を乱す結果になった。
 中国では改革開放政策の波に乗って続々と航空会社が設立され、現在では大小合わせて30以上の航空会社があり、輸送能力が需要を上回る状況が続いており、中小航空会社の大半が赤字経営に陥っているのが実情である。航空券の割引販売が認められたことは、バスや列車との競争に打ち勝つための有効な手段であり、搭乗率の大幅アップにつながるとして航空業界から歓迎され、また安い価格で搭乗できるとあって国民からも歓迎された。しかし思惑とは裏腹に過度の値下げ競争により価格は大幅に下がり、しかも搭乗率も低下するという予想外の事態を招き航空各社の業績を一層圧迫する結果となってしまった。
 6月7日付の「チャイナデイリー」によると今年第1四半期の航空各社の搭乗率は58.8%にすぎず、昨年同期の68.8%を大きく下回り、業界大手の中国東方航空や中国南方航空でも赤字転落となり、主要11社で合計17億元(一元17円換算で289億円)に上る赤字を計上したと伝えている。航空券が値下がりしたにも関わらず、搭乗率が低下した原因は、航空各社が新規需要を見込んで新機種を導入し新規路線の開設を行ったが、需要が伸びなかったことにある。
 中国民用航空総局は国内線航空運賃の行き過ぎた値引き競争を制限するため@航空券の割引価格は正規料金の2割引を限度とする。A航空券の販売代理手数料は航空券価格の3%を超えてはならない、という内容の「国内航空運輸市場秩序の監督強化に関する決定」の通達を発表し5月1日から実施した。値引き競争の隠れ蓑になっていた軍人、教師、学生、高齢者などに対する割引制度などの特例措置も一律廃止され、また規定違反者に対し、罰金最高額20万元、航空便停止、営業許可取り消しなどの処罰を課すことも可能とした。
 中国当局では昨年9月からの航空券割引販売の実施により、業界内での適度な競争体勢が整い、航空会社の再編が進むものと予想していた。しかし地方政府の保護政策などが障害となり、再編は遅々として進展しなかった。また各地で高速道路の建設など交通インフラの整備が進んでいることから、これまでは航空便の利用しか移動手段のなかった地区間でも割安な車やバスでの移動が可能となっていることが、航空券価格が低下しても搭乗率の増加につながらなかった原因となったようである。
 今回の航空券割引価格の制限は、航空業界業績回復のための抜本的な改革とは言えず、却って更なる航空機利用の減少をもたらしかねない。航空業界では航空会社の効果的な再編、需要動向に応じた効率的な航空路線配備など改革の必要性に迫られている。

最新ビジネスリポート
激戦! 「上海飲料水産業」   6/98

シェア逆転の秘密
 会見するクリントン大統領の前に置かれた水は、アメリカ製でもなくフランス製でもない上海製蒸留水「碧純」でした。以前の上海の水事情は非常に悪く、訪問する外国の要人は自国の水を持参したそうです。連日40℃近い猛暑が続く上海から冷たい水の話をリポートします。

上海自来水の現状
 中国では水道のことを自来水と言う。言い得て妙な表現である。上海に水道が整備されたのは1883年。英国の技術によって黄浦江の側に楊樹浦浄水場が完成し、主に租界地へ向けて送水されたのが始まりである。魯迅が生まれた2年後のことである。その後フランスの技術により南市浄水場が建設されたが、1949年の解放前には僅か3ヶ所の浄水場しかなかった。
 現在は上海市自来水公司(国有)により揚子江系5、黄浦江系9の計14の浄水場で日産860万立米 、平均600万立米(834万立米)が毎日230万世帯へ供給されている。水道管総延長は10,652Km(18,313q)である。(カッコ内は平成8年度の茨城県の数値)埋設された管が一部50年以上経過していることから錆の混入がひどく、風呂にお湯を張ると黄色く濁り温泉に入っているようである。白いタオルを使おうものなら1ヶ月も経たない内に茶色に染まってしまう状態だ。このような水質の問題から上海市民は生水を飲むことはなく、コーヒー瓶などにお茶をいれて持ち歩くのが習慣となっている。


黄浦江の最も上流にある大橋取水口付近

飲料水産業の誕生
 この水質の悪さに目を付け商売に結びつけたのが香港の中太集団有限公司である。延中実業公司(国有)と合弁で1992年10月に上海で初めての浄水製造販売会社碧純有限公司(登録資本金225万ドル、総投資額450万ドル)を設立した。浄水は当初携帯用のペットボトルとして93年10月から販売されたが、500oリットル入り3.5元(93年10月の1元は約20円で当時の販売価格は約70円)という値段は水を買う習慣の無い中国社会では受け入れられなかったようだ。当時の上海市内の労働者平均月収は約 500元(10,000円)、250oリットルの牛乳が0.5元(10円)、水道水が1立米 0.68元(14円)という状況から、浄水の値段は異常に高く習慣云々以前の問題であったものと思われる。
 事業所や家庭向けへの業務用の浄水販売も同時に行われた。5ガロン(18.5リットル)入りのボトル(25元 500円)と専用給水機(1,000〜2,000元程度)を使用する画期的なもので、経済成長が始まった上海で徐々に浸透し、昨年末の業務用浄水の普及率は約30%、120万世帯で使用されるまでになった。ペットボトルも最近になり若者に指示されて爆発的に売上げを延ばし、現在上海市内には144 社の浄水製造販売会社が操業を行うに至っている。この内、外資系は約10%で香港、アメリカ、日本が資本参加し、日本からはキリンが500ogを中心に市場参入している。


1883年に建設された楊樹浦浄水場は今も現役で活躍中

意外に単純な工場内部
 碧純の工場は上海市の北西部嘉定区にある。農村地帯に整備された工業団地にある工場は「これが一流飲料メーカーの工場か」と思えるほど小規模であった。浄水製造のメカニズムは水道水を濾過器に通してタンクにためボトルに詰めるという極単純な方法である。ボトル詰めのラインも10m程度のものが2本しか無く、ボトルが機械で素早く流れる日本のビール工場などを想像していただけに唖然としてしまった。
 浄水の製造方法は2種類ある。一つは水道水を 105℃で沸騰させフィルターを通して異物を取り除く方法、もう一つは水道水に高圧力を掛けて何度もフィルターを通しカリウムなどを除去する方法だ。ボトルには前者が蒸留水、後者が純水と表示されている。上海では 134社が純水を10社が蒸留水を製造しているが、この純水が曲者で衛生当局の調査によると、約70%の純水から雑菌が検出され改善命令が出されたという。写真は工場内に設置されたアメリカ製の蒸留機で、2台が熱風を上げてフル稼働していた。1台で1時間3tの製造能力がある。



過激なシェア争い
 碧純では先発の利を活かし、94年売上額1千万元、95年3千万元、96年、97年6千万元と順調に売上げを伸ばしてきた。同社の97年度の主な販売実績はペットボトル類 1,983万本、業務用ボトル30万本であった。主な販売ルートはペットボトルがスーパーマーケット、酒たばこ小売公司(国営)、油小売公司(国営)、個人商店への卸を行っており、業務用は直営で申し込みを受け付け配送している。最近の急激な売れ行きに刺激され、碧純の中国側出資企業である延中実業は自社ブランド「延中」を97年に発売して業界に参入。子会社の販売網を活かして売上げを伸ばすという熾烈な販売合戦が開始された。碧純の97年度のシェアは43%とトップを占めたが、本年6月末現在で3位(正広和、延中、碧純)に転落した。原因は単純明快。上海市内を闊歩する若者の右手にはキャップをまわさなくても飲める新製品「運動蓋」(日本流にいえばスポーツタイプのキャップ)がついたペットボトルが主流を占め、回転式の旧式キャップは蔭を潜めてしまった。この新キャップ付きボトルは、使用後、台所で油や醤油などの調味料入れとして非常に便利であることから熟年層にも支持されている。後発の正広和、延中がいち早くこのキャップを取り入れたが碧純は出遅れてしまった。案内をお願いした周銀宝副総経理によると運動蓋はアメリカからの輸入に頼っており、9月まで納品無しとのことであった。取材に行ったにも関わらず、「成形メーカーを紹介して」と逆に依頼されてしまった。

気になるペットボトルの再利用
 ジュース類を入れると年間1億本以上のペットボトルが市内に出回っているが、周副総経理にリサイクルの話を向けると「私たちは生産するだけだからその先のことは解らない」と素っ気ない返事であった。世界のプレジデントが飲んだ中国一の水質を誇る水メーカーの副社長の発言としては、はなはだ寂しい限りである。
 上海ではゴミの分別は行われていない。ペットボトルは一部回収され、リサイクルされているようだが実態は明らかでない。リサイクルに慣れた私たちにはゴミとして無惨に焼かれるペットボトルの声が聞こえてきそうだ。


スーパーには各社の浄水が並んでいる


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