新しい時代の旭村を展望して

広報広聴課  副参事 自見 友一

1 はじめに

 平成7年4月から平成9年3月まで旭村助役として、村行政の第1線に関わる機会を与えていただきました。
 地域振興の基本を一貫して「農業立村」に据えて行政を推進する旭村の、課題を抱えながらも重心の安定した活力を文字どおり肌で感じることのできた2年間だったと思います。
 また、21世紀の到来を目前にひかえて、農業立村の新たな展開を模索する時期にさしかかり、改めて郷土資源の再評価とさらなる活用の方向について、職員の皆さんとはもちろん、村内の各界各層の方々と意見を交わし、議論を重ねることのできた幸運にも恵まれました。
 地域づくりの面からその体験の一端を記しながら、旭村の新時代に向けての胎動と多面的な魅力をご紹介したいと思います。


2 旭村の概要

 旭村は水戸市から約20km、太平洋に面した県南東部に位置し、標高35m前後の平坦な台地の広がる、総面積54km2の村です。
 8kmにわたる長い海岸線に沿って続くクロマツ林など純度の高い自然が随所に息づいており、杉林の深い緑に囲まれた33の集落が畑地の豊かな広がりのなかに落ち着いたたたずまいを見せています。
 人口12,000人、3,000世帯は、増減に多少の曲折はあるものの、昭和30年の合併による旭村の誕生以来ほぼ安定して推移してきており、村の活力を維持しながら、急激な人口増がもたらす無秩序な地域開発からも守られてきたといえます。
 旭村は、恵まれた、肥沃な褐色火山灰土の土壌を生かした農業を基幹産業として発展してきました。現在、村全体の約五割が農用地として利用され、うち畑地が2,000haで農用地の大部分を占めており、メロン、トマト、イチゴ、甘しょなどを主要な作物として、東京を中心に全国各地へ出荷しています。


3 現況と課題

 平成7年の国勢調査によると旭村の第一次産業比率は51.7%で県内一となっています。
 主力産業の農業は立地条件を生かした都市近郊型農業として、施設園芸型営農(アンデスメロン、アールスメロン、トマト、イチゴ等)と、土地利用型営農(甘しょ、ごぼう、人参等)を中心に、果樹、畜産と幅広く定着して多彩に展開されており、首都圏等へのふるさとの味覚発信基地として重要な位置を占めています。
 専業農家率は50%近くに達し、農業粗生産額も180億円を超えて県内一、二位を争っており、自他共に認める県内屈指の農業立村といえます。
 しかし、地価が比較的安いこともあって、近年は住宅地を中心にミニ開発等の開発圧力も次第に増加しつつあり、農業環境の保全を図りながら、時代に即応した郷土資源の新たな活用を促すという観点から、将来を見据えた土地利用計画の抜本的な見直しが求められる時期にきています。
 都市計画区域の指定は早く、既に昭和49年12月に村内全域が指定を受けていますが、集落が分散・点在していて、核となる中心拠点地区が必ずしも明確ではなく、市街化区域の線引きや用途地域の指定がなされないまま現在に至っています。
 また、集落が村全域にわたって分散形成されていることは、以前から、生活環境設備(特に上下水道)の一体的、効率的整備を少なからず困難なものにしてきました。
 上水道は、平成5年3月に簡易水道事業の認可を得て事業着手され、北部地区(給水区域21km2、計画給水人口4,360人)の工事が平成9年度に終わりましたが、引き続き南部地区33km2が残っており、この地区は今後、上水道事業計画区域として事業展開を図っていかなければなりません。少なくとも平成18年頃までの期間を要すると見込まれています。
 現在未着手となっている下水道の整備は、村の財政規模を考慮すれば単独公共下水道事業では困難であり、近隣町村とともに流域下水道事業として計画していくことが最適と思われます。
 なお、集落の分散形態も一様ではないこともあって、地区によっては農業集落排水事業の導入も不可避と考えられます。
 生活関連道路については、改良率が50%と、県内町村の平均レベルを大きく上回っており、村民生活の活力を支える動脈として重点整備を図ってきたこれまでの施策の成果が実ってきています。今後は、舗装率のより一層の向上が課題といえます。
 旭村の特性ともいえる緑地や木立ちの連なり、長い海岸線などの景観も、十分に自然的魅力を有しながら資源活用の面からは素材のうちに歴史を刻み、固有の表情(地域イメージ)に乏しいまま村内の閉鎖的空間内に止まっている感があって、郷土資源としてその秘めた豊かさをさらに生かしきっていける可能性はまだ十分に残されている印象を与えます。
 広く、奥行きのある景観の広がりを、ほかでは見ることのできないふるさとの原風景として、村の誇れるもう一つの顔に形づくっていくためにも、難しさはありますが新しいアピールポイントをいかに演出して、その普遍的魅力を獲得するかという側面にもこれから力を注いでいく必要があると思われます。
 均衡のとれた郷土づくりを実現するためには、基幹産業である農業の振興に加え、第二次、第三次産業の集積促進もおろそかにはできません。
 特に、第二次産業については、これから企業集積を図っていく上で最適の未利用地がまとまった形で残されていますので、その誘導に大きな期待が持たれます。


4 周辺地域との関連

 近年、鹿行地域を縦断する東関東自動車道水戸線の整備や百里飛行場民間共用化計画、常陸那珂港の建設など、旭村周辺における開発動向が活発化しており、これらのビックプロジェクトの展開を契機とする周辺地域との交流の活性化は今後、旭村の地域的な属性をよりオープンな方向へと変容させ、農業、工業、商業等の産業系のほか、流通系、居住系、文化・観光系のすべてにわたって、旭村の郷土資源の新しい発見と活用を促していくものと期待されます。
 一方では、農地と集落、平地林の融合した、緑と解放感にあふれた景観の広がりも、次の世代へ引き継ぐべき旭村のかけがえのない財産としてとらえ直すことが求められているといえます。
 開発と保全の両面において、郷土の資源を秩序と均衡のとれた方向で十二分に生かしきるためにも、周辺地域の動向と旭村の地域的な属性を的確にとらえて、長期的視点に立った土地利用計画と地域整備計画の策定乃至見直しが求められる所以です。
 平成7年8月策定の茨城県長期総合計画(地域計画編)においても、旭村を含む鹿行地域の整備の方向として、「連携と交流による個性豊かな地域づくり」を重要な柱の一つに掲げています。


5 新しい地域づくりに向けて

 社会基盤をしっかりと整備して産業の誘導・活性化を促し、経済・流通システム等の確立による財政基盤の強化を通じて、福祉、保健、医療、教育、文化の振興、充実を図り、質の高い住民生活を実現するという図式は、戦略戦術上のウェイトの置き方に多少の差はあるものの、いずれの自治体においても行政運営の基本的な手法といえるでしょう。
 旭村がそのための確とした道標を整えるためにも、既に触れたとおり、地域的な特性や周辺地域の動向を踏まえた土地利用計画や地域整備計画の樹立は不可欠の条件と思われます。
 特に,自治体として厳しい財政状況が今後も続くことが予想されることから、これからの地域づくりに向けてより合理性のある官民の棲み分けと機能分担のルールを明確にし、ある程度の期間は要しても効率のよい社会資本の投下を導いていくために、将来への進路を測る新しい羅針盤の備えは急がなければなりません。
 このことは、水戸都市圏と鹿島郡市圏の中間に位置し地域構造上も類似性を有する旭村周辺町村にも共通する課題であるとの認識でお互いに一致するところがありましたので、隣接関係自治体と共同で、県の支援を得て平成8年度に所要の準備を進め、今年度から新たな地域開発整備計画策定のための調査に着手したところです。
 (これは近い将来旭村が直面するであろう周辺自治体との広域的な行政再編という長期的な課題に対しても、様々な角度からの論議を深めていく貴重な糸口を提供する契機にもなると思います。)
 そこにおいては、地域の現況把握と課題の抽出、地域特性の分析と評価、地域整備基本方針と展開戦略の確立、地域整備構想と先導プロジェクトの検討などが行われることになっており、その成果が待ち望まれるところですが、旭村の現況と課題、周辺地域のもたらす広域的諸条件などを踏まえると、今後の旭村の地域づくりの方向(視点)を定めるにあたっては、次の事項について引き続き十分に議論を重ねる必要があると考えています。

(1) 農業立村の新たな展開

 旭村は、地域の極めて高い営農志向に支えられて三つの銘柄作物を軸に付加価値の高い農業を展開しています。栽培面積では最大の1,000haを誇る甘しょも第四番目の銘柄をめざして共販率の向上に全力を上げています。
花き栽培は、旭村の農業全体に占める割合はまだ少ないものの、空路や高速道整備など本村周辺における輸送利便性の飛躍的向上が見込まれる将来に向けて、その成長に大きな期待が持てる分野です。
 今後は新たな戦略作物への挑戦(メロン新品種の開発、パイプハウスからガラス温室化による園芸作物のグレードアップなど)が目論まれており、農業協同組合が中心となって取り組んでいるところですが、これらの生産部門の強化に加えて、農産品の活用による加工部門並びに農産物直売組織の拡充など流通販売部門の誘導も今後の課題といえます。
 また、特に都市部との交流の活性化は、緑に囲まれたふるさとの安らぎを求める観光農園的な地域レクリェーションへの参加の需要をさらに高めることが見込まれますので、このルートの積極的な導入を図ることも重要と思われます。
 農業連携型の第二次、第三次産業の集積拡大は、村が長い歳月を重ねて築き上げてきた農業立村の伝統の上に立って、郷土の新たな活力を育み、均衡のとれた地域づくりの次なる展開に向けてその力強い推進力になるものと考えられます。
 旭村周辺地域における陸、海、空の交通ネットワークの整備は、これら郷土資源の再評価と産業構造の高度化に向けて限りないインパクトを及ぼすものと期待されます。
 なお、農業後継者(あるいは後継者の配偶者)問題もないではありませんので、未来へ夢のつなげる農業環境を整えるという観点に立って、農地の集約化及び中核農家や認定農業者の育成により一層努めるなど、後継者問題がこれ以上深刻化することのないよう配慮していく必要があると思います。

(2) 拠点整備と原風景の保全

 村内では集落が分散して立地しており、拠点となる集落(中心市街地)の形成が不十分であることが指摘されています。
 しかし、将来にわたっての住民の利便性の向上、地域の活力の維持などを考慮すると、公共サービス機能と商業、居住、文化等の諸機能の融合した地区や交通の要所における居住地区、観光レクリェーション地区、さらに企業集積促進地区など、それぞれ多様な機能を持って村の核となる地区の形成は極めて重要であると思われます。

旭村役場周辺−公共サービス機能とともに商業、居住、文化機能等の集積拡大による中心市街地形成をめざしている。

鹿島旭駅周辺−住宅地としての最適地が
20ha以上にわたって延びる。

涸沼駅周辺−住宅地のほか親水型の観光レ
クリエーション基地としても開発が待たれる。


 役場周辺地区、大洗鹿島線の鹿島旭駅周辺地区及び涸沼駅周辺地区並びに南部の樅山地区等は拠点整備ポテンシャルの優れて高い地域と考えられます。
 これらの拠点地区は連携軸(国道51号線、県道下太田鉾田線、子生茨城線)によって相互の機動性が十分に確保されるはずです。
 ここにおいても、周辺地域における交通ネットワークの整備等ビックプロジェクトの展開によってもたらされる交流活性化のエネルギーを的確に誘導していく視点を見失わないようにする必要があります。
 このような拠点整備を集中的に進めることによって社会資本投下の効率化を図りつつ村の活力と住民の利便性を高めながら、同時に、既存集落、周辺農地、自然林等都市部では既に残されていない貴重なふるさとの景観を旭村のもう一つの顔として、また、一度失われれば二度と戻ることのない天与の恵として、次の世代へ引き継いでいくことも可能になると思われます。
 その際、たとえば外国を例にとるならば、ドイツ、ロマンチック街道沿いの、中世の息づかいを現代に色濃く伝える小さな村落のいくつか、その洗練されたたたずまいは大いに参考になるでしょう。
 第2次大戦後50年以上をかけて森や林、果樹園、放牧地、民家等の地域資源を一体として保存し、後世への遺産とするための整備を粘り強く続けてきた視点の深さと確かさから教えられることは多いと思います。
 これらの拠点整備と原風景保全の方向性が定まってくれば、課題となっている市街化区域の設定や用途地域の指定も早晩検討の俎上に上ってくるものと考えられます。

(3) 社会基盤及び生活環境基盤の整備

 産業系、居住系、文化・観光系等のすべてにわたって村内の既存資源を再評価し、それの新しい発見と活用を促し、旭村の郷土づくりをより解放的な方向へと導いていくためには、周辺において質的にも量的にも今後大きな影響力を与えることが予想されるビックプロジェクトとの連携を確保することが重要なポイントを占めることは既に述べたとおりです。
 そのためにも広域的な交通ネットワークの整備には全力を尽くす必要があります。
 現在、郷土の骨格を形づくる生活関連道路の整備とともに、国道51号線から同6号線(美野里町)に至る広域営農団地農道整備事業(涸沼南地区 27km)が鋭意進められており、さらに将来的には、国道51号線から村内を東西に横断し、東関東自動車道水戸線インターを経て常磐自動車道へ連動する新たな幹線軸の誘導も構想されています。
 これらは多分野にわたる旭村の地理的優位性をさらに高めていくものと期待されます。
 また、従来遅れが見られていた上下水道の整備も緊急の行政課題として事業化が図られ(上水道)、併せて検討されており(下水道)、交通網の整備とともに村内の社会基盤整備は着実にその進展をみているところです。
 今後はその推進により一層の努力を傾注して取り組むことが望まれます。
 なお、長年の懸案となっていた、大洗・旭・水戸環境衛生組合の一般廃棄物最終処分場(旭村荒地地区3.1ha容量7万t)については、村民の理解と関係機関の支援により、平成8年5月に建設着工し、一年後に完成して稼動を始め、快適で質の高い生活環境の実現に大いに寄与しています。


6 おわりに

 旭村は平成7年3月に合併40周年を迎えました。
 合併当初は村一面に麦畑の広がる閑静な農村でありました。
 昭和40年代以降、市場性、収益性の高い施設園芸を主体とした栽培、出荷体制の確立が図られ、現在では本県を代表する農業立村の地位を築くまでになりました。
   今、21世紀を間近にして新しい地域づくりの息吹が大きく膨らもうとしているこの時期に、
 豊かさやゆとり、うるおいを真に実感できる村として今後より一層の飛躍を図っていくためには、地域の将来像をしっかりと示しながら、初めて旭村を訪れた人にもその魅力が十分に伝わるような地域づくりを進めていかなければならないこと
 何度でも行ってみたい、できれば住んでみたいと思ってもらえるような村にすることが理想であること
 行政は常に前進する技術であってほしいこと
 去年よりは今年、今年よりは来年、目に映らない部分も含めて何かが確実に良くなっていると村民の皆さんに感じてもらえる行政に心掛けていく必要があること
 等々、折にふれ、機会をとらえて議論を重ねることができたことはこの上ない貴重な経験となりました。

旭村の景観(造谷地区から大洗鹿島線沿線を望む)
−畑地の豊かな広がりのなかにふるさとの原風景をとどめている。

 地域の実情に十分には通暁していない新米助役の生硬で拙い意見に、それでも熱心に耳を傾け、思うところを率直に語ってくださった米川村長さんはじめ職員の皆様、村会議員の諸先生方、多くの村民の皆様に改めて深く感謝申し上げます。
 旭村が新しい時代における郷土の確かな展望を開きながら、豊かさとゆとりの水位を高めつつ、末長い繁栄に向けて力強く着実な歩みを重ねていかれることを心からお祈りしております。


※村全体の将来像−インフラを中心として



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