茨城県の療育支援体制について

つくば保健所  技師 酒井 真理

 障害をもつ子どもや、障害を残してしまう恐れのある子どもについて、その子やその家族が望む社会生活ができるようになるためには、どのようなシステムが必要だろうか。
 ここでは、土浦・つくば医療圏を中心に、障害児に必要な療育支援体制について、検討会を重ねた結果について述べてみたい。


1 はじめに

 障害児を持つ親の希望は2通りある。第1に「障害全治あるいは改善」、第2に「普通の生活を」ということである。これは、言い換えれば「障害がなくなってほしい。全治できなくても、改善されてほしい。」また、「たとえ障害があったとしても普通の子供たちと共に育ち、社会の中で生活できるようになってほしい」という願いである。
 しかし実際には、多くの親たちは子供のために、病院や訓練の場や幼児教育の場を探した結果、受け皿が少ないことで失望する場合が多くある。というのは、障害児に必要なものは、単なる治療でも訓練でもなく、また単なる保育でもなく、「専門的な配慮や工夫や努力の含まれる特別な子育て」なのである。そして、この「専門的な配慮や工夫や努力の含まれる特別な子育て」が「療育」なのである。
 この療育に関連する我が国の障害者施策は、国が平成5年に定めた「障害者対策に関する長期計画」等に基づき、保健・医療・福祉・教育・雇用等の各分野において推進されており、平成7年12月には障害者を取り巻く社会経済情勢への具体的対応を目的に「障害者プラン〜ノーマライゼーション7か年計画」が策定され、障害者施策に関する数値目標が示されたところである。(表1

表1 「障害者プラン」における障害児療育システムの構築


1 

各都道府県において、療育に関する専門的指導等を行うことのできる、障害児療育の拠点となる施設の機能の充実を図るとともに、市町村が行う心身障害児通園事業等の地域療育に対し、障害児通園施設等が指導・支援する事業を概ね人口30万人当たり概ね2か所ずつを目標として実施する。

2 

障害児通園施設の見直しを図り、障害の種別にとらわれない利用を図る。
3 在宅の障害児が身近な場所に通うことができるよう、保育所等を活用した小規模の心身障害児(者)のための通園事業を約1.3千か所を目標として計画期間内に整備する。
 


 また、少子化が叫ばれる中、平成9年には茨城県において茨城子育て支援総合計画「大好きいばらきエンゼルプラン」が策定された。この中の「多様な保育サービスの充実」には「障害児の保育」ということが明記され、平成12年度までの目標値(200ヶ所)も設定されている。
 このように、療育に関する計画は以前に比べればかなり整備されてきているが、療育支援の現状はまだまだ厳しい状況にあり、支援体制の強化が求められている。


2 療育支援の現状と課題

 現在、療育支援について、各分野において実施されているそれぞれの施策をまとめると、表2のようになる。

表2 各分野における療育支援の現状と課題
区分役割(機能)機関事業と課題(○事業・◎課題)
保健・健康診断による早期発見
・経過観察
・各種相談
市町村保健センター○要観察児のフォロー教室
○障害児支援事業
◎未実施市町村が多い。
保健所○地域特殊育児相談
○市町村・保育所支援
○関係機関の調整
◎社会資源の不足によりコーディネーションが難しい。
医療・検査、診断
・治療
・医学的リハビリ
・医療面での在宅生活の支援
病院○器質的な検査や診断
○専門家によるリハビリ訓練
◎専門のスタッフによる訓練の場が不十分である。(小児科を標榜している機関が少ない。)
訪問看護ステーション○主治医、市町村保健婦からの紹介で関わっている。
○病状の把握・介護指導・サポートを、病院の医師・理学療法士等との連携で関わりを持っている。
◎小児のケースについての対応は少ない(主に老人について対応している)
福祉・障害者への福祉サービス
・個別、集団における療育的な指導
・関係機関の後方支援
・保育所・保育園の処遇
児童相談所○療育手帳の判定
○個別・集団の療育訓練(主に自閉症を対象とする)
○事例検討会や早期療育指導会議、研修会をとおして関係機関の後方支援をしている。
◎広域のエリアをカバーするだけのマンパワーや設備が不十分である。
福祉事務所○障害児(者)へ必要な福祉サービスを紹介
○各種給付事業
◎障害者への対応が主であり、障害児についての対応は児童相談所で実施している。
保育所・
保育園
○障害児と健常児の統合保育
◎障害児を持つ親で、保育所入所を希望している場合でも、すべてが入所できるわけではなく、受け入れてくれる保育所は限られている。(申請窓口は市町村の児童福祉主管課)
教育適切な教育の実施幼稚園・小学校・養護学校○学校によっては、普通学級に適応が難しい児に対し「言葉の教室」や「情緒教室」等を実施しているところもある。
◎養護学校か普通学校か(運がよければ情緒学級等が利用できるが)どちらか一方を選択しなければならず、併用はできない。
◎幼稚園における障害児の受け入れや統合保育は、保育所と同様、マンパワーの充実や専門家の後方支援等の環境整備が必要である。


 保健の分野における、県の事業としては、発達の遅れのある児等を対象に専門医による診断を行う特殊育児相談事業があげられる。診断の結果、リハビリや訓練の必要な児については、その専門機関に紹介することが必要となるが、実際には専門機関は、県央に2カ所(県立こども病院、県立こども福祉医療センター)、県南に2カ所(筑波大学附属病院、県立医療大学附属病院)しかなく、いずれも重度の障害を持つ児が優先されてしまうため、適切な訓練を受ければ健常児に近づくであろう児については訓練が受けられないで経過観察をしている現状にある。また、筑波大学附属病院や県立医療大学附属病院は数ヶ月の予約待ちになることもあるため、必要なときに必要な訓練を受けることが難しい。
 また、平成9年4月から、母子保健サービスの主なものが市町村に委譲され、療育についても各市町村において取り組みが始まっているところであるが、重度の障害を持つ児を対象とした訓練の場が不十分であるために、前述と同様、重度の児が多く集まってしまい、軽度の児について、障害を予防あるいは最小にするためのリハビリや訓練等の支援がおろそかになってしまう場合が生じている。また、市町村においてこのような療育の支援を実施する場合、専門スタッフを確保することが難しく、効果的な実施が困難になっている場合がある。
 なお、療育を必要とする児は、療育手帳の交付数及び3歳児健診における有所見者数から推定すると県内で約7,000人となっている。(表3

表3 平成8年度における療育手帳交付数及び三歳児健診有所見者数からみた療育の必要な児の推定値

(1)療育手帳新規交付数(14歳以下)
A(最重度)A(重度)B(中度)C(軽度)合 計
5036776142001,994

(2)三歳児健診有所見者数
対象者受診者 身体面有所見者数精神面有所見者数合 計
28,88525,3033,7061,2014,907

(1)(2)から保健・福祉・医療・教育等何らかのフォローが必要と考えられるケース数は、6,901人と推定される。

(1)は、土浦・江戸崎・下館地方福祉事務所における、平成8年度療育手帳の新規交付数(18歳未満)と、「茨城県の人口(年齢別)」(平成8年1月1日〜平成9年1月1日現在)から14歳以下を推定した。
(2)は平成8年度母子保健事業実施状況(保健予防課集計)から引用。



 次に、医療の分野についてであるが、医療機関においては、専門家による検査・診断をした上で、必要な訓練・治療をすることになるが、小児リハビリを標榜している医療機関が少ないため、専門家による訓練が十分に受けられないことが課題となっている。また、訪問看護ステーションについては、現在は老人への対応がほとんどであり、親(特に母親)の負担を軽減するためには、ステーションからの医療スタッフの派遣が求められている。

 次に、福祉分野についてであるが、まず児童相談所においては、療育手帳の判定や自閉症児を対象とした定期的な個別・集団訓練を実施しているところであるが、福祉機能の充実を図るためには、市町村や障害児を受け入れている保育所・幼稚園等に対する後方支援(専門家による巡回相談等)が課題となっている。しかし、児童相談所は県内3ヶ所と2分室しかなく、かなり広域を管轄しており、課題克服のためには地域のニーズに合ったマンパワーや設備の充実が必要である。また、福祉事務所においては、障害児(者)への必要な福祉サービスを紹介したり各種給付事業を実施しているが、実際の障害児への訓練や相談は、児童相談所においての対応となっており、一貫したサービスの提供や利用する住民の利便性からすると改善の余地がある。

 さらに親にとって最初の難関である、保育所・保育園の入所であるが、冒頭に述べたように、親としてはたとえ障害があっても普通の社会で生活できるように育てたいという思いがある中で、健常児と一緒に生活できる統合保育を希望するが、実際に受け入れている保育所は限られている。江戸崎地方福祉事務所・土浦地方福祉事務所管内で障害児を受け入れている保育所は138カ所のうち52カ所である。保育所・保育園について、正確な入所希望者数は把握されていないが、実際に障害児を持つ親からの声を聞くと希望通りに入所できることが少ないことから、希望者数に対する充足率は高いとは言えない。こどもの立場からすると、障害児にとっては健常児と生活することにより、社会生活を身につけることができ、運動・精神発達面でも伸びることもある。健常児にとっては障害児と生活することにより、障害を持つ人への思いやりが育つなどの報告がある。

 最後に、教育の分野についてであるが、幼稚園における障害児の受け入れは各施設によって様々であり、実状は十分把握されていない。しかし、前述のように、障害児も健常児も必要な教育を適切に受けることが大切であり、その機会を可能な限り平等に与えるべきである。またこれは就学についても同様である。保育所までは多少、家から遠くでも親が送迎をして、障害児を受け入れてくれる保育所へ通わせていたとしても、就学となるとさらに門戸は厳しくなり、親も普通学級を断念する場合が多い。普通学級が、その子にとって最善というわけではないが、普通学級と養護学校との併用など弾力的な対応がこどもにとっては必要なのではないかと思われる。


3 求められる療育支援体制

 ここでは、求められる療育支援体制のうち、特に保健と医療の分野について述べてみることとする。
 療育は先に述べたように、「専門的な配慮や工夫や努力の含まれる特別な子育て」であり、保健・医療の分野においても、様々な施設に従事する多職種のマンパワーが有機的に連携するシステムを構築することが必要であり、それをまとめたものが図1である。

 この図は、必要なマンパワー及びサービス施設・団体は二等辺三角形の両側に、そしてそれが担うべき役割については二等辺三角形の内側に示しており、頂点へ向かうほどより専門的かつ高度な役割を担うことを示している。

 具体的に説明すると、第一に、この頂点にあたる高度リハビリサービス機関は地域ケアサービスの拠点として位置づける。これを新たに開設することが財政的にもマンパワー的にも難しい現状では、既存の機関をシステムに組み入れ有効利用すべきと考えられる。そこで、県立リハビリテーションセンターを高度リハビリサービス機関として整備し、こどもについての専門リハビリ職員を配置する。さらに、県立こども病院及び県立医療大学附属病院においては地域ケア対応の専門リハビリ医療職員を配置し指導・訓練を行う。


 図1 障害児を育てる地域ケアシステム
 第二に、専門的リハビリ地域拠点センターとして総合療育センターを設置する。スタッフとしては、リハケアマネージャー、発達指導員、リハ専門医、理学療法士、言語療法士等が考えられ、この療育センターが国の障害者プランに示されている「人口30万人に2カ所」の施設として位置づけることができる。現在、こどもを対象にリハビリを行っている病院は、県南地区では土浦協同病院・きぬ医師会病院・会田記念病院等があるが、これは理学療法士による機能訓練が主である。総合療育センターの機能としては、相談・診断・訓練・短期入所等の総合的なサービスの提供が求められるので、既存の病院に併設する場合にはマンパワーや施設・設備の充実が必要となる。

 第三に、保健所を地域リハビリの拠点として整備する。ここでは、ケアマネージャーとしての保健婦研修を、市町村保健婦を対象に実施する。研修にあたって必要なスタッフとしては発達指導員、リハビリ専門医、理学療法士、言語療法士等が必要となり、保健所に設置されることが望ましいが、総合療育センターからの派遣で対応することも可能だろう。さらに保健所においては、前述の専門スタッフを市町村や保健所等への派遣する等のコーディネートを実施する。

 第四に、市町村保健センターを、障害児在宅ケア拠点として整備する。障害児及び障害を招来する恐れのある児に対し、身近な市町村において定期的に訓練・指導を実施するが、この場合必要に応じて専門スタッフを総合療育センターや地域リハビリ拠点である保健所から派遣してもらう。
 以上が、保健・医療分野における障害児を育てる地域ケアシステムである。


4 まとめ

 障害児を育てる地域ケアシステムは、1高度リハ2専門的リハ地域拠点3地域リハ拠点4在宅ケア拠点の4つの機能から構成されており、それぞれが障害の程度に応じた療育支援上の役割を有している。
 本県の場合、134については、施設数及びマンパワーの点で課題はあるものの既存の施設があり、現時点においては2専門的リハ地域拠点が一番機能的に弱いと言えよう。従って、各種専門スタッフを配置した総合療育センターを地域に整備する施策を優先して進めることが必要である。国の「障害者プラン」に基づけば、県内に必要な専門的リハ地域拠点は約20カ所となるが、新たな施設整備ばかりでなく、既存の病院等にこの機能を付加する形で整備を進めることも可能である。
 保健・医療の分野における療育を総合的に支援するためには、4つの機能が有機的に連携されることが必要であり、それぞれの機能の充実を図る施策展開が求められる。


5 おわりに

 今年度から土浦・つくば医療圏(竜ヶ崎・土浦・つくば・水海道)の保健所により療育に関する検討会を重ね、保健・医療・福祉・教育等関係機関を対象とした研修会を2回実施した。第1回目の研修では、検討会においてアドバイザーとしてご協力下さった筑波大学心身障害学系教授 福屋靖子先生の講演で、170人の参加があり、「障害児を育てる地域ケアシステム」「地域ケアシステム構築への課題」等について提言があった。また、第2回目には、各関係機関の専門家や障害児を持つ親をメンバーにシンポジウム形式で意見を交換した結果、親の立場から切実な要望が数多く出され、行政側の障害児対策の重要性を改めて痛感させられた。
 また、県南地域においては、障害児を持つ親の会の活動が活発になりつつあり、今年度は、親の会が主催となり、療育に関する講演会をはじめて開催し、約140名の参加者があり、身近な地域における適切な訓練が必要とされていることを実感しているところである。どこに住んでいても身近なところで平等に療育支援が受けられるようするためには、まだまだ乗り越えなければならない課題は数多くあるが、住民のニーズにできるだけ応えられるよう、療育システムの構築に努力したいと思う。


療育に関する検討会メンバー
 竜ヶ崎保健所  秋本 規  鴻田 芳恵
 土浦保健所岡田 淳子 渡辺 梅子
鈴木 洋子
 つくば保健所鳩貝 貞子 酒井 真理
 水海道保健所鈴木 照代 小森 久代
 アドバイザー筑波大学教授 福屋靖子


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