花豆「常陸大黒」(ひたちおおぐろ)

生物工学研究所普通作育種研究室

研究の背景とねらい

花豆(ベニバナインゲン)は、冷涼地帯で良く着果することから「高原豆」とも言われ、茨城県では自家消費用として茨城県県北山間地帯を中心に栽培されていました。品種としては、在来種の種皮色が紫に黒い斑紋の「紫花豆」および種皮色が白い「花豆白在来」が主でした。
生工研では、昭和62年から新しい品種の母材となりうる有用な遺伝資源を茨城県内外から集めていました。これらの遺伝資源の種子更新を行うなかで種皮色の黒い花豆を見つけたので、この特性を育種素材として生かし、全国でも初めての黒色で大粒・高品質の花豆新品種の育成に取り組みました。

品種の特徴

(写真1:「常陸大黒」の花(左)生育状況(中)サヤ(右))

「常陸大黒」は花豆としては国内初の種皮色が黒一色で、輝くような光沢のある高品質・大粒の品種です。
育成地(茨城県水戸市)における開花期、成熟期は中生、伸育性と草型は無限つる性のため支柱栽培が必要です。胚軸の色は赤紫、葉色は濃緑、花色は赤(紅)です(写真1)。1粒が2グラム程度と日本一大きな黒豆で、糖尿病や動脈硬化の予防に効果のあるポリフェノールの一種であるアントシアニンは、黒大豆の100グラム当たり77ミリグラムに比べ、230ミリグラムと3倍も多く含まれています(日本食品分析センター調べ)。

育成の経緯

(写真2:「常陸大黒」(左)と種皮色が白い「花豆白在来(「常陸大黒」の母親)」(中)種皮色が紫に黒い斑紋の「紫花豆」(右))

昭和63年に栽培した在来種の「花豆白在来」を母親として他の在来種を父親に自然交雑したものと考えられます。平成5年に種子更新のため「花豆白在来」の栽培を行ったところ、その内の1株から真っ黒い豆を収穫しました。この1株をもとにして、種皮色が黒で多収・大粒・高品質の品種育成を目的に育種を開始しました。
平成9年(雑種第5代)の収穫時には種皮色が固定したことを確認し、10年に「常陸大黒」と命名し、14年に品種登録を完了しました。現在は茨城県内に限り栽培されています(写真2)。

本県には、これまで花豆の生産組織や商品はありませんでしたが、「常陸大黒」の育成をきっかけに、多くの関係者による普及活動によって、平成20年度には茨城県県北地帯を中心にいくつかの生産組織が確立し、平成29年度は350アールで栽培されています。また、茨城県内の企業によって「常陸大黒」を原料とした「ようかん」や「どら焼き」の和菓子や洋菓子も含め、菓子類30品を開発し販売を進めています。

育成の裏話

収穫後、特性調査のためにサヤを剥いた瞬間、白一色の「花豆白在来」の株から見たこともない真っ黒い大きな豆が現れ、一瞬びっくりしました。そこで、国内で栽培されている花豆について調べてみると、「紫花豆」と「花豆白在来」の2品種しかありませんでした。「これは、日本一大きな真っ黒い豆だ」とわかり、「茨城県の特産作物になる」と確信ました。そこで、すぐに固定化して品種登録しようと考え、選抜・固定を進めました。

名前の由来は、茨城県で初めて育成され、かつ日本一大きな国内で初めての黒一色の花豆品種ということから、『西の丹波黒(大豆)、東の常陸大黒(花豆)』と賞される特産作物となることを願って命名されました。