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更新日:2017年7月24日

「ベンチャーリンク」地域経済対談 2008年4月号

「ベンチャーリンク」平成20年4月号に掲載された、茨城県知事と山海嘉之(サイバーダイン最高経営責任者)の対談記事です。

新しい産業を創出したい――。どの自治体も地域経済活性化のために最も望むことだ。茨城県は国内外から優秀な研究者が集まるつくばをはじめ、技術に秀でた中小企業の集積など、創業や新事業展開の環境に恵まれている。今後、どのような戦略で地域の産業発展を目指すのか。橋本昌知事と山海嘉之CEOが官民の立場から意見を交わした。

「優秀なベンチャー企業が育つ土壌をしっかり作っていきたい」橋本 昌 茨城県知事

橋本知事:今から何年前でしょうか。私が山海CEOの開発したロボットスーツ「HAL」を初めて見たのは。

山海CEO:知事に最初にご覧いただいたのは、まだまだデザインも洗練されていなかった試作品の3号機ができたころですので、3~4年前になると思います。当時から知事は県の福祉関係者をお招きしたお披露目会を開催してくださるなど、積極的に紹介をしてくださいましたよね。

橋本知事:私はロボットスーツには本当に期待しています。高齢化により、自力でトイレにも行けないお年寄りが増え、お年寄りの介助者の負担もますます増えていくでしょう。弱った筋力をカバーするロボットスーツがあれば、自力でトイレに行けるようになります。さらにロボットスーツは高齢化対策や福祉対策だけではなく、人口減少による労働力不足の解消にも効果があるのではないでしょうか。

山海CEO:そうなると嬉しい限りです。これからの日本は本気で少子高齢社会への対応に真剣に取り組まないといけませんから。

橋本知事:昨年、京都大学再生医科学研究所がヒトの皮膚細胞からあらゆる細胞に分化できる「万能細胞」を作ることに成功したというニュースが流れ、世間の高い関心を集めました。「HAL」も社会的な実用価値という点で万能細胞に勝るとも劣りません。山海CEOは完璧主義者だから、ご自身がとことん納得できる完成品に仕上げてから販売する方針なのかもしれませんが、例えば下半身だけとか体の特定部位用として売り出しても需要が高いと思います。

山海CEO:「HAL」は全身型がマスコミで紹介されていますが、知事がおっしゃったような下半身タイプや片足タイプ、腰だけのタイプというように、ユニットごとに分けられる仕掛けづくりをしています。ブロックを組み合わせるように、顧客の要望に応じて様々なシステム構成ができるような仕組みです。

橋本知事:それを聞いて安心しました(笑)。あとは価格ですね。みんなが使いやすい料金にすることが大事です。欧州では義肢や車椅子などは補装具センターで貸し出されています。「HAL」もそういった形でレンタルすれば、国内だけでもものすごい需要があるでしょう。

ロボットスーツ「HAL」

HAL(Hybrid Assistive Limb)は、身体機能を拡張したり増幅したりして人間の筋力を補助する世界初の装着するサイボーグ型ロボットで、筑波大学大学院の山海嘉之教授の研究室で開発された。40キログラムの重さの荷物でも、数キログラム程度の感覚で持ち上げることができる。皮膚表面に装着したセンサーが脳からの指令が筋肉に伝わる際に生じる微弱な生体電位信号を読み取り、パワーユニットを制御して装着者の筋肉の動きと一体的に動くことによって動作を支援する仕組みだ。

「一般の人々の声を吸い上げてこそ社会に役立つ製品ができる」山海嘉之 サイバーダインCEO

山海CEO:通常、製品価格は開発にかかった費用も上乗せしていくのでしょうが、量産化しないと高級スポーツカーのフェラーリくらいの値段になってしまいます。それでは誰も買えないので、作る意味がありません。そこで、一般の個人の方が使えるようにするための方策として量産化とリース・レンタル方式の導入を進めています。まだ高いと言われるかもしれませんが、個人向けには月額7万円程度のレンタル費と多少のメンテナンス費で貸し出す計画です。

橋本知事:需要が増えて量産できれば価格も下がっていきますからね。量産化のための研究開発・生産拠点を整備するとともに、北欧など海外への事業展開にも積極的な取り組みを開始しましたね。つくば発のロボット技術「HAL」が世界中に広がっていくことを期待しています。

山海CEO:私たちのビジネスは、日本の地域経済改革へのチャレンジでもあるのです。地域に新産業を創出しても必要な人材がそろわなければ、ビジネスは成り立ちません。一方、人材を育成しても、その地域に働く場がなければ人材が流出してしまいます。だからこそ、地域経済を活性化させるためには、「新産業創出」と「人材育成」をセットで取り組む必要があるのです。私は、科学者・研究者の立場からそうした気運を盛り上げるためにも、一般の方々が実際に新技術に触れることができる施設を作る予定です。一般の方々が体験し、率直に感じたことを研究機関に反映していく。そういった『イノベーション・スパイラル』(進化する渦巻き)ということを提唱し実現していきたいと考えています。

橋本知事:つくばエクスプレス研究学園駅に今年オープンするショッピングセンターに、「サイバーダイン・スタジオ」を設置するのは、そういう理由があるのですね。実は茨城県が進めている「中小企業テクノエキスパートの派遣事業」も、イノベーション・スパイラルづくりの一助になる支援策だと思っています。

山海CEO:具体的にはどのような事業ですか。

橋本知事:最先端の研究開発に従事したあと、定年で退職された方々を中小企業に派遣して、新製品の開発や生産性向上に関する技術指導などをしていただくのが趣旨です。これまで筑波大学をはじめ、つくばにある研究機関で働いている人たちは、東京から来ている人が多く、定年を迎えると東京に帰っていました。だけど最近は、江崎玲於奈先生や村上和雄先生など、つくばに残る人も増えています。つくばエクスプレスの開業で東京がずっと近くなり、自然環境にも恵まれて住み心地がいいことから、つくばでの永住志向はもっと強くなるでしょう。また日立製作所など民間企業の定年退職者もたくさんいます。それらの人々の力を活用しようという考えです。

山海CEO:それは、中小企業にとっては心強い支援ですね。

橋本知事:期間は最高60日間ですが、最初の10日間は無料です。その後は1日9,000円と交通費の3分の1を負担してもらうだけで、専門家の知恵を借りることができます。

山海CEO:一般的に、専門家の方の知恵を借りようとすると場合によっては、1日5万~10万円かかりますからね。それが60日で約50万円ですから、費用的にもずいぶん助かりますね。

橋本知事:ただ、この派遣事業は県内の中小企業の間でまだ浸透していません。例えば、登録された約 300人のエキスパートの専門分野などを顔写真入りでホームページ上で紹介するなど、利用を促す仕掛けづくりに取り組んでいます。総合相談窓口の運営もその1つです。そのほか、県内の中小企業の販路拡大支援策として、ビジネス・コーディネーターを東京などに駐在させて、大手企業などへの営業活動を手助けするという取り組みも行なっています。例えば、「関東5県ビジネスマッチング商談会」や「いばらきものづくり交流会」などの開催を支援し、ビジネスチャンスに結びつけています。茨城県には、優れた技術力をもつ中小企業が多いと私は思っていますが、山海CEOの目から見るといかがでしょうか。

山海CEO:当社の「HAL」も、茨城県の企業に加工の一部をお願いしたりしています。大企業や国の研究所で働いていた方が再雇用されていることもあり、今後が楽しみです。

橋本知事:そういった優秀な中小企業を海外にも紹介し、世界に貢献すると同時に、私たちの生活を豊かにできるようにしていきたいと思っています。代表例の1つが山海CEOのサイバーダインです。これからも優秀なベンチャーが創出される土壌を育てていきたいですね。

山海CEO:今年12月には東海村でJ-PARC(大強度陽子加速器施設)が稼働します。原子核物理、素粒子物理、物質科学、生命科学、原子力工学のなどの学術研究の場として国が利用していこうという考えですが、県としても何か施策を考えていらっしゃいますか。

橋本知事:県としてもJ-PARCに材料構造解析装置や生命物質構造解析装置を設置し、新産業の創出に結び付けていきたいと考えています。財政的には少し厳しいかもしれませんが、そうしていくことで県自体も発展していけるきっかけになると思うのです。

J-PARC

大強度陽子加速器J-PARC(Japan Proton Accelerator Research Complex)は、平成20年12月の供用開始を目指し、日本原子力研究開発機構原子力科学研究所(東海村)において整備が進められている。

  • J-PARCでは中性子やニュートリノといった粒子(素粒子)を用いて、今までとは違った世界から原子や分子を研究する世界最高クラスの施設であり、高性能リチウム電池などの新機能性材料の開発や、がん、アルツハイマーなどの難病治療薬の開発などに繋がる研究が進むものと期待されているほか、宇宙がどうやって創られたのか、なぜ物には重さがあるのか、といった壮大な謎の解明にも挑戦していくことになる。
  • 茨城県では、企業の新技術・新製品開発を支援するため、J-PARC内に2本の中性子ビーム実験装置を県独自に整備し、J-PARCに合わせて全国の企業を対象に供用を開始する予定である。

山海CEO:先日、起業するならどこがいいかと知人に聞かれました。「国内で起業する地としては茨城県に勝るところを探すのは難しい」と答えました。特につくばはベンチャー企業への支援策も豊富ですからね。

橋本知事:2003年に開設した「つくば創業プラザ」では、ベンチャー企業を対象に、高速インターネットサービスが利用可能なインキュベーション(起業支援)ルームを提供しています。この施設はつくば研究支援センターが運営しているのですが、同センターではインキュベーション・マネジャーを配置し、資金調達や販路開拓、技術開発などの課題に対し、助言するなどの支援も講じています。また、06年には「JSTイノベーションサテライト茨城」を誘致しました。ここでは、有望な研究成果の掘り起こしや実用化に向けた産学官の取り組みを支援しています。

山海CEO:茨城県は交通網が発達し、平野が広く居住エリアも十分にあります。また行政も、「この県に住んでみたい」と思わせる県づくりに力を注いでいる。本当にこの県で創業してよかったと思います。

橋本知事:そう言っていただければ本当にうれしいですね。これからも世界に貢献できる茨城県となるように精いっぱい取り組んでいきます。

ベンチャーを支援するつくば地域の主な施設

  • つくば創業プラザ
    創業を目指す人や創業間もない企業、新たな事業分野の開拓を図る企業などを対象にした支援施設。つくば研究支援センター敷地内に設置されている。入居期間は原則2年以内。様々な起業家が集まるため、有意義な交流が図れる。また、インキュベーション・マネジャーやコンサルタントなどからの指導やアドバイス、情報提供なども受けられる。
  • JSTイノベーションサテライト茨城
    産学官の交流および産学官の研究成果の育成を推進し、技術革新による新規事業の創出を図るJST(科学技術振興機構)の地域拠点の1つ。「つくば創業プラザ」と同様に「つくば研究支援センター」に設置されている。

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