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更新日:2017年7月24日

「月刊コロンブス」2009年3月号

「月刊コロンブス」平成21年3月号に掲載された、茨城県知事のインタビュー記事です。

工業と農業を主軸に置いた政策で百年に一度の大不況を乗り切る!!

いまひとつハッキリとしたイメージがない茨城県だが、実は工業県であり、農業県でもあるという特色がある。では、その特色を生かして次代をどう歩んでいくのか。また、2010年に開港を控えた茨城空港の可能性はいかに。さっそく、橋本昌茨城県知事にそのあたりについて聞いてみた。

コロンブス3月号表紙

ゲスト

橋本昌(はしもと・まさる)茨城県知事

プロフィール

1945年茨城県東海村生まれ。69年東京大学法学部卒業、同年自治省(現総務省)入省。山梨県総務部長、自治省公営企業第一課長等を歴任後、93年9月に茨城県知事に就任、現在4期目。関東地方知事会会長、全国港湾知事協議会会長、経済産業省総合資源エネルギー調査会委員、農林水産省農林水産技術会議委員等を務める。

すぐれたインフラを生かして次代の産業を育成する

【並河信乃・本誌編集主幹】 百年に一度の大不況といわれていますが、茨城県内の様子はいかがでしょうか。

【橋本昌・茨城県知事】 日立製作所が7000億円の赤字、7000人の人員整理を発表しているぐらいですから、全体として非常に厳しいです。ただ、全部が全部ダメというわけではなくて、日立のなかでも原子力発電や風力発電関係の受注はいいようです。それに、金属や化学業界はそろそろ動き出しそうだという見方もあります。現在、茨城県にはコマツ、日立建機などの建設機械の企業が立地しており、商用車トップメーカーの日野自動車の進出も決まっています。ですから、景気が上向きになれば、一番早く動き出すことができると思います。

【並河】 今のところはジッとこらえるといった感じでしょうか。

【橋本】 ただ嵐が過ぎるのを待っているだけではありません。茨城県にはさまざまな産業インフラがあるので、これを使わない手はないと考えています。例えば、高エネルギー加速器研究機構と日本原子力研究開発機構が共同で建設した「J-PARC」(大強度陽子加速器施設)もそのひとつです。
また、昨年12月には北関東自動車道の県内全区間が開通したおかげで、東北道と常磐道が直接アクセスできるようになりました。ですから単に我慢するのではなく、こういった産業インフラを最大限に活用しながら、栃木県民や群馬県民を対象にした観光を考えるなど新しい方向を模索していかなければならないと考えています。

【並河】 不況の影響で派遣切りや外国人労働者の問題が取り沙汰されています。茨城県ではどうでしょうか。

【橋本】 もちろん、製造業が多い地域では発生していますが、県全体としてはそれほど深刻な状況にはなっていないと思います。茨城県には今回最も大きな打撃を受けている自動車産業の関連企業が少ないという事情もあります。
例えば、雇用保険の受給者の数を見てみると、全国平均が人口1000人当り4・58人であるのに対し、茨城は3・37人と全国で最少になっています。

【並河】 ところで、つくばエクスプレス(TX)が開業して3年半が経過しましたが、その後の様子はどうですか。

【橋本】 開業当時はマンションの建設ラッシュだったのですが、最近はピタリと動きが止まってしまいました。これが一時的なものであればいいのですが、少し心配しています。ただ、TXの乗客数は年々増加傾向にあります。TXができたことにより、東京への通勤圏が広がっているようです。

分散型の地域経済で不況下を生き抜く

【並河】 茨城というと、水戸やつくばといった個別の地名は浮かんでも、全体としてのイメージがハッキリしません。そのあたりについてはいかがですか。

【橋本】 日経リサーチが行った地域ブランド力調査によると、総合評価は、埼玉が43位、茨城が45位、栃木が46位、群馬が47位となっています。残念なことに北関東ブロックはあまりイメージがパッとしないようです。ですが、東洋経済新報社が調査した住みよさランキングを見てみると、100位以内に茨城県内の都市が7つも入っています。つまり、住んでみるといいところだけど、イメージがいまひとつ湧かないといった感じなんだと思います。ですから、これからは茨城という名前をもっと知ってもらえるように努めていきたいと考えています。

【並河】 茨城県はこれからどういった産業を推進していくのですか。

【橋本】 やはり茨城県としては先端の科学技術に磨きをかけていく必要があると思います。今の日本は食料の6割、エネルギーの8割を輸入に頼っています。となると、科学技術を活かして生きていく以外に道はないのです。そのためには、ほかの国がマネできないような最先端の技術を常に持ちつづけなければなりません。幸いにして茨城県には研究学園都市「つくば」があります。そして、「J-PARC」をはじめとした数多くの先端技術施設がありますし、つくばだけでも2万2000人もの研究者たちが働いています。
これらをフル活用することができれば、我々が想像もできないような研究成果がでてくるはずです。例えば、難病の治療薬やリチウムイオン電池をつくるといったように。認知症の治療薬の発明に成功して年間約3000億円の収益を得ている例もありますから、産業として育成していく楽しみがありますね。また、これからはつくば発のベンチャー企業の活躍にも期待しています。例えば、筑波大学発のサイバーダインという会社はロボットスーツを開発して話題を呼びました。そのロボットスーツは医療・介護などの現場で力を発揮すると期待されており、すでに国内外の企業やメディアから注目されています。

【並河】 日立に鹿島につくばと、茨城の工業地帯は実にバリエーションに富んでいますね。

【橋本】 いろいろな業種が立地しています。電機や機械、鉄鋼、石油化学、原子力産業など広範な分野にわたりますが、高度なものづくり産業はこれからの日本にとって大変重要です。そういう意味では“選択と集中”ではなく、いろいろな産業があることが茨城の強みだと思っています。

【並河】 ところで、茨城といえば農業も盛んだと思いますが、そのあたりについてお聞かせください。

【橋本】 手前味噌ですが、茨城の農業は日本の農業のリーダーです。平成19年の農業産出額は全国第3位でした。また、東京都中央卸売市場での青果物の取扱高は5年連続1位になっています。作物を見ても、日本一のものが9品目、2位も3位もそれぞれ約10品目あります。とくに有名なのは干しイモですが、そのほかにも全国の産出額の46パーセントを占めるレンコン、44パーセントを占める水菜などがあります。また、メロン、白菜、レタスなども高いシェアを誇っています。なかでも、最近の注目株はメロンです。茨城のメロンは収穫して店頭に並ぶ頃にしっかりと甘みが出てきます。静岡のメロンと比べて価格は数分の一です。それから最近は常陸牛も人気を集めています。積極的なPRを行った結果、平成15年度に約2200頭だった出荷頭数が、平成20年度は約4500頭位にまで増える見込みです。

【並河】 食料自給率が問題視されているだけに、茨城の農業には期待したいですね。

【橋本】 期待を寄せられるだけに農業の振興には率先して取り組んでいきたいと考えています。例えば、耕作放棄地の問題などには積極的に取り組まなければならないと考えていますし、トレーサビリティーや生産履歴などを明確にするような取り組みも進めるべきだと思っています。また、茨城県では今年度から「いばらきエコ農産物」認証制度をはじめました。茨城の農業・農産物のイメージを高めるために、「エコ農業茨城」に取り組む地区において、化学農薬と化学肥料を5割以上削減して生産された農産物を「いばらきエコ農産物」として認証するようにしたのです。

【並河】 工業と農業の両方が高い水準にある県は珍しいのではないでしょうか。

【橋本】 工業も農業も盛んという意味では、愛知県と茨城県くらいかなと思います。規模は違いますが、例えば、フランスは農業国でありながら工業国でもあるわけです。茨城もそういう産業構造を目指していきたいと考えています。

茨城空港の開港でLCCが身近な存在に

【並河】 ところで、茨城県の人口分布はどのようになっていますか。

【橋本】 実は茨城には大都市がありません。中小都市が点在しており、例えば、水戸が26万人、つくばが21万人、日立が19万人といった具合です。このような都市形成が良いのか悪いのかというと難しいものがあります。人口が分散することで格差問題を緩和することはできますが、どこかに大都市があったほうが文化機能、商業・娯楽機能などを集中させやすくなりますからね。そう考えると、県北、県南にそれぞれ50万都市があればちょうどいいのかもしれません。

【並河】 こうしてお話しを聞いていると、やはりヨーロッパ的な印象がありますね。また、地域経済のインタビューをやるとだいたい暗い話が多いですが、知事の話を聞いていると、あれっ、他の地域と比べるとだいぶ違うなという気がするのですが。

【橋本】 私は、これからの人口減少時代に茨城を発展させていくためには、働く場所を確保し、一定の定住人口を確保することが大事であり、そのために産業大県づくり、交流拠点づくりを進めてきたところです。定住人口が少なすぎては、病院も成り立たない、医師も集まらない、人材づくりもうまくいきにくいと思います。その結果、交通インフラの整備などもあり、今年に入ってからも、日野自動車の古河市への進出、東京ガスのLNG 基地の日立市への立地、茨城空港へのアシアナ航空の乗り入れなどが決まったところです。

【並河】 2010年に開港予定の茨城空港についてお聞かせください。

【橋本】 私は全国港湾知事協議会の会長を務めておりますが、私が知事に就任した平成5年のコンテナ取扱い量は神戸港が世界で6位、横浜港が9位でしたが、もはやその面影はありません。今は東京港が日本一になっているのですが、その東京港でさえ世界では25位に甘んじています。もはやコンテナの大半が上海やシンガポールに流れており、今から日本の港がハブ港湾としての地位を取り戻すのは困難といえるでしょう。
こうした状況が空でも起こる可能性があります。政府はビジット・ジャパン・キャンペーンを展開していますが、空港で元気があるのは首都圏と福岡圏くらいです。実際、成田空港では42カ国・地域が乗り入れを待っている状態だと聞いています。これではこれから主流となる格安航空会社(LCC)を受け入れることもできません。事実、最近のLCCの台頭は目を見張るものがあります。アジアのLCCとして高い人気を誇るエアアジアもそのひとつです。同社の利用客数は 2001年には29万人しかいませんでしたが、今や1399万人にまで膨らんでいます。
そこで、茨城空港ではLCCを受け入れられるような環境を整えていきたいと考えています。例えば、普通、搭乗ゲートと到着ゲートは2フロアに分かれていますが、これを1フロアでもOKという形にするわけです。そうすることでフロアマネージャーの人件費を節約することができますからね。ボーディングブリッジなども不要ですし、地方空港ですから着陸料なども低額になります。
また、プライベートジェットの乗り入れも進めていきたいと思っています。現在、成田も羽田もプライベートジェットをほとんど受け入れられないのが現状です。これでは世界のビジネスやスポーツ、芸能などのトップが日本に来る機会が減ってしまうのは明らかです。となると、ビジネスチャンスも逃すし、重要な国際会議などが開催される機会も減るわけですから、国益にも影響を及ぼしかねません。

【並河】 ターゲットにしている利用者はどのあたりですか。

【橋本】 空港から自動車で1時間圏内に住む340万人の地元の方々や、東京圏内の人たちをターゲットにしています。路線については韓国便の就航が決まっていますが、韓国からの旅行客にはゴルフ、温泉、電気製品のショッピングなどで茨城を楽しんでいただけると自負しています。何といっても茨城にはゴルフ場と温泉のいいものがありますし、北関東自動車道周辺の家電量販店は東京よりも格安と評判ですからね。した規制緩和で企業が活動しやすい地域にしています。そのかいあって特区制度導入以降、企業の設備投資額は五○○○億円を超えると推定されます。

【並河】 茨城空港は思わぬ可能性を秘めているようですね。これからの動きに期待したいと思います。本日はありがとうございました。

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