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更新日:2015年4月1日
カンブリア紀の地層と銅鉱床—日本最古の年代を更新
茨城県日立市から常陸太田市にかけての山地で、日本で最も古い約5億年前の地層が発見されています。2008年に日立市小木津町の山中で最初に発見したのは、日立市郷土博物館特別専門員で茨城大学名誉教授の田切美智雄(たぎり・みちお)さんの研究チーム。その後常陸太田市の茂宮川上流部にもあるとの報告がありましたが、多くの研究者によって茂宮川上流部は白亜紀の地層であると修正されました。2014年になって、野崎さんのチームが宮田川不動滝地下の日立鉱山産銅鉱石から5億3300万年前という年代を報告し、日本最古の地層の年代値が更新されました。日立市から常陸太田市にかけての山地には古生代・カンブリア紀の地層が約50平方キロにわたって広がっています。
田切美智雄茨城大学名誉教授
田切さんは以前からこの地域を調査しており、サンゴの化石などから約3億5000万年前の地層があることが分かっていました。そこで今回は、さらに詳しく調べるため、化石ではなく物理的な年代測定を実施。オーストラリアで開発されたシュリンプ(SHRIMP)という高精度の測定装置で、採取した岩石の年代分析を行いました。
分析には、岩石に含まれるある物質を利用します。それは、岩石に含まれるジルコンという鉱石の中のウラン238。このウラン238には、長い時間をかけて一定のスピードで壊れて行き、最終的には鉛に変化するという性質があります。そこで、岩石の中のウラン238と鉛の割合を正確に調べることで、採取した岩石がいつごろ誕生したのかを知ることができるのです。この方法で割り出された年代は、ウランが放射性物質であることから、放射年代と呼ばれています。
この方法で明らかにされた世界で最も古い鉱物は、約44億400万年前のもので、オーストラリア西部で発見されました。また、世界で最も古い石はカナダで発見された約42億8000万年前の岩石。グリーンランド南西部では、約38億年前の堆積岩が発見されています。地球が誕生したのが約46億年前と言われているので、これらの年代には驚くべきものがあります。
しかし、茨城県で発見された日本最古の地層は5億3300万年前。この数字の開きには理由があります。それは、日本列島には火山が多く存在し、地殻変動が激しいこと。地殻の隆起や陥没、また火山の噴火活動などで、古い地層が残りづらい環境にあるのです。日本で発見される恐竜などの化石が断片的で、全身がきれいな形で発掘されることが稀なのも、この激しい地殻変動が原因ではないかと言われています。このような条件にも関わらず5億年以上も前の地層が発見されたということは、日本列島の歴史を知る上で大きな意味を持っています。
日本列島は、茨城県から始まった!?
では、茨城で発見された5億3300万年前の地層から、いったいどんな事が分かるのでしょう。それは、日本列島誕生の秘密です。現在、地球上には、ユーラシア、北アメリカ、南アメリカ、アフリカ、オーストラリア、南極大陸の6つの大陸があります。しかし、5億年前の地球は違います。南アメリカやアフリカ、オーストラリア、南極大陸などを含めた、ゴンドワナ大陸という超大陸があったと考えられています。このゴンドワナ大陸が分裂することで、現在の6大陸が生まれた。つまり、大陸は同じ場所にあるのではなく、少しずつ動いているのです。
大陸の移動は、地球科学の分野でプレートテクトニクスと呼ばれています。地球はプレートと呼ばれる固い岩板で作られていて、このプレートは対流するマントルに乗って互いに動いているという学説です。この学説に従えば、今回発見された地層と同じ地層を持つ地域と、茨城県は繋がっていたのではないかと考えることができます。
その繋がっていた可能性がある地域とは、中国東北部やロシアの極東部。どちらからも、約5億年前の地層が見つかっています。つまり茨城県は、ゴンドワナ大陸の東の端にあった火山地帯であり、それが日本列島の始まりではないかと考えられるのです。
その後、2億4000万年前ごろに茨城県は新しい大陸バンゲアの一部となり、そこに海底の移動とともに運ばれた堆積物と陸から運ばれた岩石などがはり付きました。その一部が地底の奥深くで圧力と高温で固められ、日本列島の土台になったと考えられます。そして、約2500万年前に大陸の縁が割れ始め、2000万年前ごろに日本列島の原型が形作られたのです。
茨城県で発見された地層が作られた5億3300万年前は、古生代・カンブリア紀に分類されます。この時代には「カンブリア大爆発」と呼ばれる現象が起きました。その現象とは、アノマロカリスやオパピニアなど非常に奇妙な姿をした生物が大量に現れたこと。まだ、この地層からは、このような物の化石は確認されていないので、今後の調査での発見が大いに期待されています。
知的観光旅行が楽しめる「茨城県北ジオパーク」
皆さんは「ジオパーク」をご存知でしょうか?ジオパークとは、ヨーロッパで始まった、ジオ(地質・地形など)を主な見所とする大地の公園のことです。2001年にジオパークを推進する国に対するユネスコの支援が決定し、2004年に世界ジオパークネットワーク(GGN)が設立。2009年には日本ジオパークネットワーク(JGN)が設立されました。そして、5億3300万年前の地層が発見された茨城県の北部も「茨城県北ジオパーク」として、2011年に日本ジオパークネットワークに加盟しました。2015年秋には、世界ジオパークはユネスコの正式事業となりました。
現在、世界ジオパークネットワークに加盟している地域は120カ所(2015年現在)。また、日本ジオパークネットワークに加盟しているのが39カ所(2015年現在)で、その中の8地域が世界ジオパークネットワークに加盟しています。ユネスコからジオパークとして認められるためには、地形学、生態学、考古学、歴史・文化に重要なサイトを含むことなどクリアしなければならない条件が幾つかあります。その中でも「公的機関、地域社会、様々な団体、研究教育機関の連携による運営」や、「ジオツアーや地域の特産品による新たな収入の道を開く」など、地域振興に繋がる項目が審査基準のガイドラインとして設けられています。
ジオツアーの様子
「茨城県北ジオパーク」の運営は、関係する各市町村の地方自治体と茨城大学などで構成される茨城県北ジオパーク推進協議会が行っています。登録されているサイトは、1500万年前は海底火山だった「袋田の滝」、芸術家・岡倉天心が愛した「五浦海岸」、恐竜が闊歩していた白亜紀の地層を観察できる「平磯海岸」などバラエティに富んでいます。それぞれ、ユニークな特徴を持った地質とその上に育まれた動植物、また、人の暮らしに息づく歴史や文化などを堪能することができます。
このジオサイトをガイドするインタープリターは、すべて地元の人たちで構成されています。大学の教員を講師として開かれる養成講座を受講し、専門的な知識を身につけジオサイトの歴史や見所などを解説しています。このような取り組みを通して、茨城県北ジオパークが地域に浸透し、地域で暮らす人たちの郷土に対する誇りを養うことも、ジオパークの大切な役割の一つです。皆さんも、茨城県北ジオパークで、知的観光旅行を楽しんでみませんか?
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