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更新日:2016年3月31日
革新技術で新市場を切り拓くHAL®
ロボットスーツHAL(ハル)とは、「人が身に着けることで、身体が不自由な方の治療をしたり、重い物を持ち上げる際にアシストをしたりする」装着型ロボット。筑波大学大学院の教授であり、サイバーダインを設立した山海嘉之CEOにより開発されたのです。
ロボットスーツHALの開発は約25年程前に始まりました。約15年前に開発されたHAL-3は、つくば市の大型ショッピングセンターであるイーアスつくばにあるサイバーダインスタジオの展示エリアにて、一般の方も目にすることができます。当時開発された2000年モデルのHAL-3は、背中部分にコンピューターやバッテリーをリュックのように背負う必要があったためモーターが外側に出っ張っており、重量自体も非常に重かったことが確認できるのです。
2005年の「愛・地球博(愛知万国博覧会)」では、大勢の来場者の前で、そのために開発された試作5号機であるHAL-5がデモンストレーションを行い、当時の最新テクノロジーを披露したのです。
2013年には、HAL医療用下肢タイプが、欧州にて医療機器CEマーキング認証を取得し、世界初のロボット治療機器として欧州全域で流通が可能となり、ドイツでは脊髄損傷を対象に公的労災保険が適用されています。
さらに、2015年11月には、日本においても厚生労働省より新医療機器として薬事承認され、2016年1月には進行性の神経筋難病疾患を対象とした進行抑制治療処置に対して、保険適用が決定しています。
皮膚表面に漏れる生体電位信号で動く動作原理
脳から脊髄を通って筋肉に伝わる神経信号を読み取って動くのが、ロボットスーツHALの動作原理。人が体を動かそうとする時、脳からは筋肉に対して電気信号が流れます。電気が流れることで、筋肉は反応して体は考えている通りに動くのです。そしてこの電気信号は少しだけ皮膚表面に漏れています。この皮膚表面に漏れ出た生体電位信号を皮膚に貼ったセンサーで読み取ることで、HALは「装着者とロボットを一体化して動く仕組み」を手に入れました。
この仕組みを使えば、コントローラーを使わず、装着者の考えたとおりにロボットを動かすことができます。つまり、障害のある方や、麻痺のある方であったとしても、HALが装着者の意思を反映した動作を支援することで、歩くことが可能になります。またこの動作を繰り返すことで、実際に「歩けた」という感覚が脳にフィードバックされ、脳が“歩く”ために必要な信号の出し方を少しずつ学習することができるといいます。このため身体の不自由な人がHALなしで歩けるようになる大きな一歩につながるのです。こうした製品を、世に役立てようと設立されたのがサイバーダインという組織なのです。
体の不自由な方の機能改善を、真の意味で後押し
2008年に製品化を実現し翌2009年に本格的レンタルを開始したのが、HAL福祉用モデルとなります。これは、脚に装着することで、脚が弱ってしまった方、または障害のある方の歩行訓練をアシストするモデルです。このHAL福祉用モデルを着け、歩くトレーニングをすることにより、最終的にロボットの補助なしで歩けるようになる、もしくはその状態に極力近づけるのが理想だと、サイバーダインは考えています。
現在では、福祉用とは別のモデルのHAL医療用下肢タイプが、脳・神経・筋系の病気の方の身体機能を改善する効果が認められ、「世界初のロボット治療機器」として、欧州や日本で医療機器として承認されています。また、米国でもFDAに医療機器の承認申請がされており、近いうちに承認されることが見込まれています。
例えば、脳梗塞を患い右足麻痺の方がいたとします。普段は車椅子で生活されているその方は、HALを使い、立ち座りや、平行棒を用いバランスを取りながら歩く訓練などを行なうのです。HALを使うことにより、麻痺がない状態と同じぐらいに脚を上げることができます。
繰り返しの説明になりますが、これは本人が脚を動かそうとする信号をHALが読み取ることで、動くことを可能にしているわけです。
脳から動かそうとする信号が出る→信号をロボットが受け取り動かす→動かそうとした指令と動いたという結果が脳にフィードバックされる→何度も繰り返されることにより脳や神経に良い結果が生じるのではないかという『IDF(インタラクティブ・バイオ・フィードバック)』の仮説こそが、HALを開発・研究するサイバーダイン社の考えなのです。この仮説を実証するため、実に様々な取り組みが、日々、行なわれています。
腰へのリスクを大幅軽減し、作業の効率化を実現
ここまでは、身体の不自由な方が使う下肢タイプのHALの内容を記しました。そしてここからは、2015年から登場した新しいモデルについて説明します。それが腰タイプのHAL作業支援用モデルです。人とロボットとを繋ぐセンサーは湿布のように腰部分へ貼り付けます。そのセンサーからケーブルでHALへと接続。物を持つ際に、脳からの信号を読み取って動きをアシストします。ある程度の重い物を持っても、腰を痛めないような作業が可能。
腕や足は、疲れることはあっても、痛めるという頻度は低いものです。しかし腰は、動きや負荷によって致命的なダメージが生じがち。痛めてしまったら、それ以降は作業ができなくなったり、効率がガクッと落ちてしまうでしょう。ですからHAL作業支援用(腰タイプ)は、腰にかかる負担を軽くして作業することを実現するロボットということになります。単に腰にかかる負荷を低減するだけでなく、腰痛になるリスクを減らすことで、すなわち長く楽に作業することができることになるのです。体全体の疲労を大きく軽減させることは言うまでもありません。建設業界を始め、現場レベルでの実践が、すでに着々と行なわれています。
「重介護ゼロ®社会の実現」を目指して
HALには、介護支援用モデルもあります。これは介護される方ではなく、する側の介護士や看護師さん向けのロボット。ほとんどの皆さんがご存知のように、介護の現場ではかなりの力が必要。介護に対する情熱が高くても、体力的な問題や、実際に腰を痛め、志なかばで引退されるなどのケースが本当に多いのです。情熱を持って業界に入ってきた人材が使い捨てのような形にならないためにも、ロボットを積極的に活用して人材を保護していくことが望まれるのではないでしょうか。この点に関してサイバーダインが目指すのは、「重介護ゼロ社会の実現」です。
ロボットスーツHALは、現在、医療、介護福祉をメインターゲットとして開発が進められています。それ以外にも今後は、再生医療との組み合わせや人工小脳の開発などが行なわれていきそうです。また、職人技と呼ばれる伝統芸能で後継者不足の問題があれば、脳からの信号を読み取り保存しておくこともできるでしょう。それと作業支援用モデルに関しては、農業への活用も期待できそうです。
つくばから日本全国、そして世界へ
日本国内でも、2015年、ロボットスーツHAL医療用下肢タイプが医療機器として認められました。医療機器に認められたことにより、今後、病院での導入が加速していきそうです。ヨーロッパやアメリカなど、世界規模でも、ロボットスーツHALに対する注目は非常に高まっています。
その拠点となるのは、当然、茨城県つくば市です。そして、イーアスつくば内(2F)のサイバーダインスタジオでは、トレーナーとして理学療法士が寄り添い、HAL福祉用を使ったトレーニングの『HALFIT』を行なうことができます。現在、その会員数は400名を超え、中には海外から訪れる方もいるそうです。
「利用したいけれど茨城は遠過ぎて・・・」という方へ向けた情報を。サイバーダインには子会社として、鈴鹿ロボケアセンター、湘南ロボケアセンター、大分ロボケアセンターが存在しているのです。特に、大分ロボケアセンターでは、地域性を活かし、温泉治療とのセットプランも打ち出しており、特に海外から訪れる方に人気があるのだとか。
最後に今一度、つくば市のサイバーダインスタジオの話に戻しましょう。トレーニング施設の『HALFIT』以外の面でも、HALをよりよく知ってもらうための解説やデモンストレーションを行なう場所という意味合いも強くあり、見学や体験も可能です(有料にて)。HALは世界でも初となるサイボーグ型ロボット。このロボットスーツHALに触れられる機会は、やはりなかなかありませんから、ぜひ一度、ご自身がサイボーグになる体験をしてみてはいかがでしょう。
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