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更新日:2017年9月6日
突然ですが、
“ ニチハンメラ ”
“ チイニチハンメラ ”
“ ニチハンメラシガナ ”
何のことかおわかりでしょうか。ヒンドゥー語? スワヒリ語? はたまた何かの暗号?
この“暗号”の解読はいたって単純。すべて、後ろから読んでみるのです。
「ニチハンメラ」→「ら麺はちに」。
そう、ラーメン屋の屋号です。そして、
「チイニチハンメラ」→「ら麺はちに市(いち)」
「ニチハンメラシガナ」→「流しら麺はちに」
このふたつは「ら麺はちに」が手がけるイベントの名称。
この「ら麺はちに」、単なるラーメン屋ではないのです。どんなに美味しくてもこのウェブマガジンではさすがにラーメン屋を紹介するわけにはいかないので。念のため断っておくと、ここのラーメンはほんとに美味しい。しかし、今回はそれが理由でこのお店を紹介するわけではないのです。実は、ラーメン屋という業種枠を超えた、高萩エリアの“コミュニティセンター”なのです。
(撮影/Yusuke Nakaoka)
「ら麺はちに」は常磐自動車道高萩インターからほど近い、ロードサイドのお店。外観はふつうのお店のようですが、よく見るとそこかしこに不思議なものが転がっていることに気づきました。とはいえ、昼どきを過ぎてだいぶお腹を空かせていたので、取材班は店内へ。
入店は14時頃。一般的なランチのピークタイムは終わっている頃を見計らって取材に来たのですが、大勢のお客さんでまだまだ賑わっていました。某口コミサイトでも高く評価されているお店ですが、この様子を実際に見て納得。食事中の方も、食事を終えて出ていく方も本当に満足そうです。
注文したのは「火山ラーメン」。みそベースですがサッパリ。(撮影/Yusuke Nakaoka)
取材をはじめる前に、ラーメンを食すとします。スープもさっぱり! 上の画像を御覧ください。油が浮いていないのです。がっつりコッテリ系に疲れたひとにはちょうどよいサッパリ加減。食べたあとでもまったく胃もたれしません。
胃袋が落ち着いたところで店内を見物。広々とした店内には、客席だけでなく、雑貨の販売スペースが設けられています。
地元高萩で製作する陶芸家・沼田智也さんの器 (撮影/ Cotsume Emi)
ドライフラワーのレジンアクセサリー (撮影/Cotsume Emi)
茨城県内で活動する「りりぃ」さんのCDも販売 (撮影/Cotsume Emi)
DIY風の内装、テーブルや椅子、置かれているオブジェや販売されている商品。ヴィンテージな雰囲気が演出されていますが、けしておしゃれすぎず、よい加減に調整されています。ラーメンを提供しているラーメン屋であることは間違いないですが、やはりふつうのラーメン屋ではなさそうです。
(撮影/Cotsume Emi)
ら麺はちにのオーナーであり店長の谷津喬史(やつ たかし)さんは、水戸の有名ラーメン店で経験を積んだ後、このお店を独立開業します。
この前、小学生の卒業文集をふと開いてみたら、将来の夢として「麺類のお店を開く予定」と書いていたんですよ。「予定」と書くぐらい、確信めいたものがあったみたいで。
はちにを開いたのは5年前の2012年。この建物は最初はコンビニが開業し、その後にいくつかのお店が入れ代わっては閉店していた物件。そんなこともあって周囲からは反対されていたそうです。しかし、常磐道高萩インターと国道6号を繋ぐ県道67号、そして陸前浜街道とが合流するY字路に位置するこの物件が気に入って決めたとのこと。
開店した当初から見込み通りの客数で推移。年を経るごとに客数は増加していったそうです。
最初からふつうのラーメン屋っぽくない、ほかと違った雰囲気を打ち出していきたいと思っていました。店内でゆっくりしてもらうために壁面にソファー席も用意していたんです。でも、どんどん増えて、見込みの倍の数のお客さんが来るようになった。ラーメンを食べに来てくれるお客さんが多いのはとてもうれしいのですが、ラーメン以上に提供したいものがあるんですよ。
“ラーメン以上のもの”。それはどういうことなのでしょうか。
(撮影/Cotsume Emi)
独立する前から、ライブができるような人が集まれる場所を作りたいと思っていました。高萩にはそういう場所がないのです。
そして、高萩でつくって日本中にファンがいる陶芸家さんの陶器のほか、キャンドルやアクセサリーのように本当にいいと思う雑貨の販売をすることにしました。100円ショップで安く器は買うことはできるじゃないですか。だけど、それで本当に幸せなのか。ぼくはラーメン屋として、ラーメン屋の中でそういう場所をつくってみたんです。
でも、ラーメン屋はラーメン。お客さんはラーメンを求めに来ます。雑貨は思ったように売れない。お客さんはラーメンをきっかけに来店されているわけで、雑貨を買いに来ているわけじゃない。
谷津さんが実現したいのは、人が集まり、楽しめる場所であること。そして、クオリティの高い器や雑貨に触れてもらい、使ってもらうこと。これだけたくさんのお客さんが来店すれば、何割かのひとはに興味を持ってくれそうなものですが、きっかけにならなかったとのこと。
そこで彼が考えたのは、ラーメン屋の外に出ること。
お店で五千円もする器を見ても、その価値は伝わりにくい。とくに、ここ高萩は、器に対してあまり敏感ではない土地柄です。
ある時、大田原の珈琲屋さんを訪ねたんです。そこで飲んだコーヒーが衝撃だった。ぼくはふだんは缶コーヒーが好きでよく飲むし、いまだって珈琲の味についてはそんなによくわかっていません。だけど、作り手から直接コーヒーを手渡されたことで、その価値にやっと気づいたんです。
そこでヒントを得た谷津さんは昨年、たくさんの作家さんに参加してもらい、作ったものを直接販売してもらうイベント「チイニチハンメラ」を開催します。
そういう理由もあって、このイベントは売上とか利益とか、ましてや“まちおこし”とか、そういう目的のためにやっているわけじゃないんです。お客さんがクラフト作家さんと直接繋がることでいいものに触れてもらうことのきっかけになる。それこそやりたかったことなんです。
チイニチハンメラは、4周年を迎えた2016年2月からこれまで開催したのは3回。いまや二千人を超えるお客様が来場する、県内でもとくに人気の高いイベントになっています。
(撮影/Cotsume Emi)
今年のお盆には、帰省してきたひとに向けて流しラーメンイベント「シガナニチハンメラ」を開催。
高萩はお盆の時期になると、実家に帰省してくるひとでごった返します。おじいちゃんおばあちゃんの家に孫が遊びに来るんですよ。そういう子どもたちに来てもらいたいと思って流しラーメンをやろうと決めました。いま高萩では見かけませんが、昔はお盆の時期に祖父母の家に行くと、盆踊り大会がやっていましたよね。それが実は故郷の記憶になっていたりする。ぼくはラーメン屋だから、流しラーメンを中心にした変なイベントを通して子どもたちの記憶に高萩の夏を刻みたいと思ったんです。
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谷津さんのお話を伺いながら思ったこと。それは、お店を営業するというのは売上を稼いで利益を出していくことだけでなく、お店の外側にある土地の文化をつくっていくことにほかならないということです。それがラーメン屋であっても、美味しいラーメンをただ売るのだけではないところにそのお店の価値がある。ひとが集まる場所と機会をつくり、クラフト作家さんや陶芸家さんらのクリエイターとお客さんをつなぐハブとなる。「ら麺はちに」がコミュニティセンターとして活躍する高萩の今後が本当に楽しみです。
文 / 中岡祐介(三輪舎(外部サイトへリンク))|写真 / Cotsume Emi(トップ画像含む)
ら麺はちに
所在地|茨城県高萩市上手綱591-1
電話番号|0293-44-3328
営業時間等詳細は直接店舗またはSNSにてご確認ください。
Facebook : https://www.facebook.com/Ramenhachini/(外部サイトへリンク)
Twitter:https://twitter.com/82ramen(外部サイトへリンク)
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