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更新日:2018年3月7日
海もあり、山もありの茨城県北。その海と山に挟まれた常陸太田市に、「美しい里」と呼ばれる地区があります。その美しさに魅了され、アーティストのクリスト&ジャンヌ・クロードが日本中の候補地からその場所を選び「アンブレラ・プロジェクト」を制作した、美しい里があります。今回はその美しい里に魅了され、20年もの間その土地に関わり続けてきたPotLuck Filed Satomi(外部サイトへリンク)代表、岡崎靖さんに前編に引き続きお話しを聞いています。岡崎さんの里美ものがたり後編をどうぞ。
▼地域の方々に寄贈してもらった本が並ぶ
前編でも触れましたが、2015年3月13日(サトミの日)に設立されたPotLuck Field Satomiは地域おこし協力隊を経て、里美に移住した前代表である長島由佳さん"の"会社でした。PotLuck Field SatomiのHP(外部サイトへリンク)に投稿された長島さんのブログ、言葉からはこの里美に対する愛情と熱意が伝わってきます。
「当初、彼女たち(当時、地域おこし協力隊で長島さんの他に女性が2名赴任)が地域おこし協力隊で里美に来ることに疑問があって。自分らの活動をなんか否定されたような気分になっちゃって。だから当初は距離を置いていたけど、段々と彼女たちも色々苦労してるんだなって気づかされて。だったら志は一緒だからって長島さんの地域おこし協力隊の任期が終わって、一緒に会社を立ち上げたのね。」
「長島さんは華もあるっていうかね、熱意もあるし、だからドリカムみたいに...(笑)自分は後ろでサポートする役目が出来れば良いかなって思ってたんだよね。」
そう、当初PotLuck Field Satomiは里美のドリカムで、岡崎さんは里美の中村正人だったのです。そして酒蔵から醤油蔵に転職した岡崎さん(前編に記載)は平日は醤油蔵に醸造職人として勤め、休日を使ってPotLuck Filed Satomiの活動を始めました。ただ、それは岡崎さんが今までずっとやってきたこと。
「長島さんが家族の事情で休職することになって、自分が代表を引き継いで、一部からは置いてかれちゃった人みたいな見方もあると思うんだけど、この会社がやっていることって、自分が里美に越してきた20年前からずっとやり続けてきたことなんだよね。」
岡崎さんは20年間ずっと里美の魅力の発信に関わり続けてきました。日立製作所の関連企業にシステムエンジニアとして勤め、森林インストラクター経由の酒蔵の蔵人に、そこから蔵転職で醤油蔵の醸造職人へ、そしてPotLuck Field Satomiを長島さんと共に設立。その間ずっっと、自分なりにその志事を続けてきた人なのです。子供の頃、お父さんの実家の福島の田舎で感じたあの原風景を、ずっと瞼の裏に映し続けてきた人なのです。
「中途半端になってしまうのが嫌だった。」と、一昨年の1月に勤めていた醤油蔵を辞め、PotLuck Field Satomiの事業1本に絞った岡崎さん。会社勤めを辞めて、個人事業者として里美の自然の豊かさを伝えたいと奔走した若きあの日から一回りも二回りも経験値を積み、そして地域の信頼を獲得し、原点に戻ってきました。
そんなPotLuck Field Satomi岡崎さんが、現在常陸太田市から委託業者として指定され、地域外からのお客さんのお試し居住をコーディネートしているとのことで、その物件『田舎暮らしトライアルハウスjinba』を案内してもらいました。
陣場という集落にあるこちらのトライアルハウス。NYのアーティスト、クリストもこちらに住みながら「アンブレラ・プロジェクト」を制作していたそうです。ちなみにクリストは地域の方々に協力を要請するために自分の足で1軒1軒をまわったそうで、行く先行く先でグリーンティーを薦められ、なんと6000杯は飲んだそう(!)なんだか、里美に関わる人は愚直な人が多いなぁと感じます。
こちらの物件、Wi-Fiも含め生活に必要なものは全て完備。1日2000円で8日目以降は1日1000円(光熱費含む)で借りられるとのこと。丸々1ヶ月滞在して4万円を切ります。家族や友人同士で滞在すれば、一人あたりの滞在費は格安です。
▼今は集会所となっているこちらの場所にクリストは住んでいたとのこと
とにかく、この陣場という集落の雰囲気が抜群に良いんです。取材日のように晴れた日なんかは最高でしょう。間違いなく、何かクリエイティブなアウトプットが求められる時には最適の環境です。前編で紹介した薄葉沢へ散歩がてら出掛け、滝を目の前にした丸太ベンチの休憩スペースに腰を下ろし、里美の食材で拵えたお昼のお弁当を食べ、帰り際に沢水を汲んで、トライアルハウスに戻ってきてから3時のコーヒータイムは沢水で楽しむ。そんな最高の過ごし方はいかがでしょうか。
前編後編に渡りお届けしてきました、岡崎さんの里美ものがたり。いよいよこれからのことを聞いていかねばなりません。
「しっかりした事業計画を立てなければダメですよって、銀行さんにも尻を叩かれちゃうんだけどさ(笑)基本的には、里美の自然の豊かさを伝えて、それが子供でも大人でも良いんだけど、結果的にその人たちの原風景みたいなものになったら良いなって思ってて。」
そうですよね。だって、岡崎さん自身がその原風景を今も大切にしている人ですよね。ふとした時、目の奥が本当に少年のような表情になる岡崎さんのピュアな魅力です。
「良く地域にとって風の人、土の人って言うでしょ。風の人は他所からやってきて他の空気を入れたり、ぶわっと風通しを良くしてくれる人。土の人は地元の人。自分も他所から来て、20年間里美にいるけれど、やっぱり土の人にはなれないんだよね。でも風の人のように去っていくのも自分には考えられない。そうした時に、水の人になれれば良いんじゃないかなって思ったの。」
水の人...?
「最初は風なのね、で山に当たって水蒸気になって水になる。それが土を潤し、新しい植物を育む。そんな感じかな。」
まるで里美のソロー(外部サイトへリンク)のような岡崎さんの言葉で、このものがたりを締めたいと思います。是非みなさんも美しい里、里美に足を運んでみてください。いつも、そしてこの先も「水の人」岡崎さんが少年の目をして案内してくれるでしょう。
〆
実は当初、岡崎さんに取材を申し込もうという考えはありませんでした。それでも県北地域を取材で巡るうちになんとなく里美が気になってきたのです。美しい里、里美。なんて素朴な良い地名なんだろう。そういう、ちょっとした引っ掛かりが徐々に大きくなってきたタイミングで岡崎さんに里美を案内してもらおうと伺いました。特に印象的だったのは、薄葉沢を案内してくださった時。僕らが感動していると、本当に嬉しそうな表情をされていました。そして、お話しを聞けば聞く程、この人が"里美"なんじゃないかと思ったのです。里美の素朴で慎ましげな自然環境、なだらかで温和な風景、それ自体なのではないか。いや、むしろ金波寒月の助川さんも、田んぼの畦で立ち話しをしているばあちゃん達も、藁で縛られた畑の白菜も、軒下の吊し柿も、沢のせせらぎも、そこにある全てが"里美"それ自体なんじゃないかと気付かされたのです。それら全ての調和の形が里美地区になっているのではないか。とても大事で素敵な在り方を今回の取材では学ばせて頂きました。
PotLuck Field Satomi 合同会社ポットラックフィールド里美
住所 / 〒311-0506 常陸太田市折橋町858-1
電話 / 0294-33-5313
HP / https://potluck-fs.co.jp
文 ・写真 / 山根 晋
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