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更新日:2018年7月19日

青い傘の“奇跡” / プロローグ|“クリスト”という事件 #00

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“クリスト”という事件 

県北芸術祭の閉幕から1年半が経つ。個人的には、地域とアートの理想的関係について深く考えさせられた65日間だった。一方で、27年もまえの、まだ里美が 「里美村」という自治体を成していたころの「青い傘」の記憶を思い返していた。自分はまだ十にも満たない少年で、その眼で直接見たかどうか定かではないのだけれど、鮮やかな“青”の記憶があることだけはたしかだ。
里美の真ん中で地域づくりに懸命に取り組む岡崎靖さんは、「青い傘」を体験していないが“青”の記憶をもつひとりだ。20年前に里美に移住してきて、クリストを直接知らないからこそ、「“クリスト”という事件」を振り返ってほしいと思い、お願いをして書いてもらうことになった。里美にとって“クリスト”とは何だったのか。地域とアートとの幸せな関係とは。記録を探り、そこに暮らすひとへの聞き取りから、ヒントが浮かび上がってくるかもしれない。(編集部・中岡)
「こんにちは。私の作品を3週間だけあなたの土地に飾らせてください」

外国人の夫婦と通訳の女性が、畑に突然やってきて話し出す。

ひとり農作業をしているところに声をかけられたお年寄りにとっては、ちょっとした事件だったかもしれない。

1985年、アンブレラプロジェクトを実現させるためクリストとジャンヌ=クロード夫妻が始めたことは、地域の人一人一人への声がけからだった。

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「アンブレラ・プロジェクト」が開催されていた当時の里美村・陣場地区(写真提供 中野強さん)

1991年の秋、常陸太田市の里野宮から日立市の中里、旧里美村の陣場地区へ向かう国道349号線沿いの総延長19kmに、高さ6m直径8.66mの青い傘が1,340本、日の出とともに開いた。アメリカ・カルフォルニア州でも同日、日の出とともに同じ仕様の黄色い傘が総延長29kmのハイウェイ沿いに1,760本開いた。ニューヨーク在住のアーティスト、クリストとジャンヌ=クロード夫妻によるプロジェクト「アンブレラ 日本=アメリカ合衆国 1984-91」の幕開けだった。

「クリストのアンブレラ見に行った?」
「行ったけどスゲー混んでてクルマ動かねーよ」
「そうなんだー。じゃあ、行かね」

日立市にある事業所で設計の仕事に追われていたときに、同僚と交わした会話である。この当時のことを、後悔することなしに思い出すことはない。

1997年、思うところがあって里美村(現・常陸太田市里美地区)に引っ越してきた。里川を中心にV字に広がる緑の森は、憧ればかりで村の暮らしについては何も知らない私たち家族を、やさしく迎え入れてくれるようだった。初めて立ち寄った道の駅で見た「アンブレラ」のポスター。食事を終え建物の外観を改めて眺めると、そのデザインはポスターで見たアンブレラそのもの。里美の人たちが一人のアーティストが実現させた偉業に誇りをもっていることを感じた瞬間だった。

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平成6年にオープンした「道の駅さとみ」外観デザインは「アンブレラ」へのオマージュ

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外灯デザインも傘

数年前のこと、再び「クリスト」「アンブレラ」の思い出を共有する機会があった。

2016年9月から始まった茨城県北芸術祭において、「アンブレラ」の舞台になった地域は残念ながら展示エリアから外れてしまっていた。そのことに悔しい思いをしたひとたちが、当時の写真や記念の品を持ち寄り、手作りの回顧展を開いた。

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2016年9月 元の酒蔵「金波寒月」折橋地域コミュニティーステーションで地域の人たちが開いた「アンブレラ回顧展」

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蔵に開いた青い傘

この時上映された当時の映像をとおして、私は、クリストのプロジェクトに少し触れることができた気がした。そして、集まった人たちから当時の思い出話を聴いていると、クリストが里美にもたらしたことの偉大さがわかってきた。

展示期間はたったの3週間。終了後に現地に残した実物はなし。わずかに残るのは記録集や個人が撮った写真のみ。

それなのに20数年たってもなお、里美に暮らすひとたちの中になにかが留まり続けていると思った。何もない山村に、突如あらわれた外国人アーティストが開いた青い傘の群れ。プロジェクトを受け入れ自らも参加したという記憶が共有財産になり、誇りとなった奇跡。

この連載では、「アンブレラ」をリアルに体験しなかった後悔を抱きつつ、資料を紐解き、当時を知るひとびとの話を収集しながら、この山間の村に起きた“クリスト”という事件を振り返り、「アンブレラ」を追体験してみたいと思う。

 

※  クリスト
ブルガリア出身の美術家で,環境芸術作家の一人。ガブロボ生れ。本名クリスト・ヤバチェフChristo Javacheff。1958年パリで物体を布で梱包した作品によってデビュー。以来,対象を包む,視界を遮るということを仕事の基本としてきた。60年代後半より,対象のスケールを巨大化し,公共建築の梱包,谷間に布を張りわたす《バレー・カーテン》(1972),野外で数kmにわたって幕をはる《ランニング・フェンス》(1976)など巨大空間の視界の遮断の計画を次々と実現した。
(出典 平凡社 世界大百科事典 第2版 via コトバンク(外部サイトへリンク)

 

 

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茨城県日立市出身。山村での自然に囲まれた暮らしを求めて、平成9年に当時の里美村に家族と共に転入。3年後地元の酒造会社に蔵人として転職。酒造りを通して、水の大切さとそれを育む森林環境の重要性を知り、2002年森林インストラクターの資格を取得。森林(自然)と人をつなぐ活動を続けている。2015年3月13日、活動を共にしていた仲間と「合同会社ポットラックフィールド里美」を設立。フィールドマネージャーとして体験活動のコーディネート、プラン策定などを担当。山村の暮らしの中から、これからの地域の可能性を見出し世に送り出すことをミッションと課し活動している。

 

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