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更新日:2020年1月29日

#07 「何か」はある!?|連載:クリエイティブのフィールドワーク

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クリエイティブのフィールドワーク

関東の最北端。茨城県の北部地域6市町を舞台にした連載『クリエイティブのフィールドワーク』。フィールドワークとは、文字通りフィールドつまりは現地に入り、各々が “ある視点” に基づいて、物事の仔細を見聞き体験し、机上だけでは決して分からない、“視点”と“対象”を結ぶ地脈を全体的に理解しようとする行為。今回の連載では、映像作家である筆者が、いちクリエイターとしての視点から、何に興味が湧き、何に可能性を感じ、何に学びを得たのかを書き残し、茨城県北地域にクリエイティブの火種を見つけていく。

この地域とアートに関して、近年の象徴的な出来事と言えば、2016年に開催された『KENPOKU ART 2016 茨城県北芸術祭』だろう。以降、作品は去れど、アートの種火はいくつかの地域に残り、それぞれに独自の展開を見せはじめている。振り返ってみれば、この種火は1991年に行われた、クリストとジャンヌ=クロード夫妻による『アンブレラ・プロジェクト』に発している。これに関しては、ポットラックフィールド里美の岡崎靖さんの連載が詳しい。地域側の視点に立ったレポートには、考えさせられることがあるので、ぜひ、ご一読いただきたい。

岡崎靖さん連載 /『“クリスト”という事件』

 “それぞれに独自の展開”のなかでも、個人的にひときわ興味をそそられるプロジェクトが先日発表された。それが、茨城県北地域おこし協力隊で、写真家の松本美枝子さんが中心となり立ち上げた、《メゾン・ケンポクの「何かはある」》だ。松本さんは、茨城県北芸術祭の招聘アーティストであり、現在は、常陸太田市の鯨ヶ丘商店街にあった旧料亭物件を再活用して、『メゾン・ケンポク』というアートと地域が交差する場所を運営し、活動の拠点にしている。今回のプロジェクトは、昨年度からの活動の経過報告的な側面がありながらも、「みる」「はなす」「きく」「しる」をキーワードに、茨城県北の歴史と事象を検証する試みになっている。なかでも、「みる」のプログラムに焦点を合わせ、松本さんや「みる」に参加する、同じく茨城県北地域おこし協力隊である、ファッションデザイナーの日坂奈央さん、フォトグラファーの山野井咲里さんに話を聞いた。

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(写真:メゾン・ケンポクのFacebookページより)松本美枝子「山のまぼろし」KENPOKU ART 2016 茨城県北芸術祭にて

「情景をつくる」 − 松本美枝子さん

松本さんといえば、昨年、本ウェブサイトで「海と山の間を歩く」という連載を執筆されていた。茨城県北芸術祭への出展以降、関係が深まったという日立市を主なフィールドに、日本最古の地層、市役所にある天気相談所、松本さんがアートディレクションしたサイエンスアートの展覧会のことなど、興味深いテーマが並ぶ。今回のプロジェクトでも、日立市に暮らす人と地質、地形に着目し、また市内を周遊できるような展示体験を想定している。まずはプロジェクト全体のディレクターとして、ここに至るプロセスを聞く。

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(松本さん)「メゾン・ケンポクで定期的に開催している、読書会があって、芸術や美学に関する専門的な文献などを読み込んでいくものなんですが、当初はほとんど人なんて集まらないだろうなと思っていたんです。そうしたら、もちろん人数は多くはないのですが、とても濃いメンバーが自然発生的に集まってきて、真剣に文献を読み込んだり、議論しているわけです。その情景に、感動してしまって、この読書会自体を作品にできる。そう思ったのが、今回の企画のきっかけです」

たとえ、アーティストや研究者として身を立てていなくとも、深い教養や議論を求めている人がいる。そうした人との出会いは、地域において、とても貴重だ。松本さん自身、茨城県北芸術祭に参加して、作品の幅が広がったと言うが、美術や写真のなかに写る被写体との関係だけでなく、場所や他者との関係それ自体を作品にしていく、ということもその幅に含まれているようにも感じた。また、今回のプロジェクトの“在り方”について、松本さんはこう言う。

(松本さん)「わたし自身、今までオーダーがあって作品を作ったり、大きな予算が組まれた芸術祭の枠組みの中で展示をしたりしてきました。けれど、読書会のように、小さなことが繋がって、予想もしなかったような状況が生まれるということを実感したことで、その小さな繋がりをしっかりとネットワーク化すれば、最終的には国際的に評価される芸術祭みたいなものができるんじゃないかと気づけたんです。また、それは地域とアートの関係に、新しい構造をもたらす可能性もあるんじゃないかなと」

それは、従来のトップダウン型の芸術祭ではなく、ボトムアップ型の新しい構造をもった芸術祭とも言えるだろうか。松本さん自身の言葉によって書かれたプロジェクトのステイトメントに、「情景をつくる」とある。アーティストが作品だけではなく、情景をつくる、と。その先に、茨城県北地域における新たな芸術祭が見えてきそうだ。

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(写真:メゾン・ケンポクのFacebookページより)読書会の様子

さて今回、松本さん自身はどのような作品を展示するのだろうか?リリースには、「人や自然の移動をテーマに写真とテキストを組み合わせた作品を発表する」とある。

(松本さん)「わたしが、2016年の茨城県北芸術祭以降、追いかけてきた日立の地質や地形、それと日立に暮らす人。これらが交わるような作品になっています。つまりは、科学と非科学が交差するとも言えます」

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作品の撮影をする松本さん

作品と展示について詳しくは、この記事の続編でレポートを書く予定だが、写真やアートに造詣がある人だけではなく、普段そういったものに触れる機会がない地域の人々が見ても、作品が問いかけてくるものをそれぞれに受容し、深く考えるきっかけとなるように思う。

おばあちゃんとの服作りから見えてくるもの− 日坂奈央さん

兵庫県加古川市出身の日坂さんは、松本さんと同じく、茨城県北地域おこし協力隊のアーティスト枠として茨城県に委嘱され、メゾン・ケンポクを活動の拠点にしている。日坂さんの作品のモチーフは、服。そう聞くと、ファッションデザインを想起してしまうが、単なるファッションのデザインではない。日坂さんがこの人と決めた、地域のおばあちゃんのために、服をデザインし、つくる。その一人一人のおばあちゃんの服ができるまでのプロセスや対話形式によるインタビューをZINE(小冊子)にまとめ、発表している。ZINEのタイトルは、『夢ちどり』。常陸太田市のホームセンターで、日坂さんが一目惚れをした花の名前を由来にしている。ちなみに、その花、夢ちどりの花言葉は、「かわいい私に気が付いて」。まさに、日坂さんが出会った、おばあちゃんたちにぴったりだと思ったそう。

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『夢ちどり』創刊号の特集は「えいこちゃん」

(日坂さん)「もともと服は好きだったんですけど、アパレルとかそういう感じじゃなくて。地域おこし協力隊になってからも、明確に何をやりたいというものが見つからず、どうしようかなと思っていたところ、移住者のミヤタ ユキさんと知り合って、アドバイスをもらっていくうちに、おばあちゃんの服つくろうってなったんですよね。若者とおばあちゃんの融合みたいな感じで、面白いかもと」

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「えいこちゃん」のためにデザインした服を見せてくれる日坂さん

この『夢ちどり』(取材時は創刊号のみ)、日坂さんによるおばあちゃんのインタビューが充実していて、かなり読ませる内容になっている。日坂さんが、“個性の強い孫”的な立ち位置をうまく作っていて、正攻法のインタビューよりもがぜん面白く、生活史にさえなっているように感じた。それには、服を個人のアイデンティティの媒介として捉えた際の特質もまた、作用しているように思う。今回の展示では、デザインした3人のおばあちゃんの服や小物などを展示して、それぞれのおばあちゃんの部屋のような展示空間に仕上げる予定とのこと。

表象と心象 − 山野井咲里さん

山野井さんとは、本ウェブサイトでも、記事の執筆や写真の撮影をされていることから、以前から交流がある。いつだったか、ふと「小屋の写真を撮っているんですよね」と、山野井さんが控えめに言ったことを覚えている。その小屋の写真群が今回、茨城県北の表象プロジェクト01として、松本さんのキュレーションで展示されることになった。当時は、小屋を撮影している理由を聞かなかったので、あらためてその辺りを聞く。

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(山野井さん)「東京から、常陸太田に帰ってきて、あわただしく仕事をしている日々があって、ある日、通勤途中にある小屋に無性に惹かれてしまって、写真を撮ったのがはじまりですね」

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(写真:山野井咲里)山野井さんが最初に撮影した、小屋

無性という感覚に、理由を聞くのも野暮のようだが、理由を聞いてみる。

(山野井さん)「小屋以上でも小屋以下でもないんですよね。小屋は、ただそこに在る。そこに惹かれた、のかな。不思議なんですけど、ある時その佇まいに諭されたことがあるんです。もしかしたら、わたしにとって、神社みたいな存在なのかもしれません」

役割や義務、虚栄や装飾から解放された、ただ在るという小屋の姿に、自身の心象をファインダー越しに重ねていく。そうして撮られた写真からは、言葉を介さずとも伝わってくる何かがある。松本さん、日坂さんと同様に、続編の記事で展示の様子をレポートしたい。

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展示の構成について、キュレーションを担当する松本さんと話し合う山野井さん

「何か」とは?

今回のプロジェクト名である「何かはある」。その意味を松本さんに聞くと、「今回のプロジェクトに、何かはあるんじゃないかといった意味で」と、ストレートな答えが返ってきた。僕はてっきり、「何もない」とよく揶揄される地方にも、“何かはある”という返しだと勘違いしていた。遠からず近からずな気もするが、どちらにせよ、いったい「何か」とは何なのだろうか?まず、前提として「何か」を何とするかは、人によってさまざまだ。今回のプロジェクトでも、展示の鑑賞者、イベントの参加者は、それぞれに何かを見つけ、考え、持ち帰ることができると思う。でもそうやって、何かに変化し、定着する「何か」とは違って、定着させること(記号化や言語化)ができない「何か」もある。アーティストとは、作品を通じて、その「何か」の存在を感知している人のことを言うのだろう。

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ノートに書かれた、松本さんのメモ書き

しかし本来、その「何か」は、アーティストだけが感知しているものではなく、私たちの生活に、身体に、もっと近しいものだったはずだ。それをもう一度近づけていくことが、地域×アートの真価ではないだろうか。そんな情景を、見てみたいと思う。

文・写真   山根晋

《メゾン・ケンポクの何かはある》

期間 / 2020年1月17日(金) − 3月8日(日)

場所 / メゾン・ケンポクと茨城県北各地

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