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更新日:2020年12月23日

今ない仕事を一緒につくる。家づくりを身近にするため、あるクリエイターと建築家がはじめたこと。

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けんぽくレポート

きっかけワークは、茨城県北地域と人をつなぐ「仕事」を紹介するコーナーです。

でも、いわゆる求人のイメージとはちょっと違います。紹介しているのは、「このプロジェクトで力を借りたい」とか、「こんなことできる人います?」といった、正社員未満の募集ばかり。まず関わってみる、そのきっかけをつくりたいという考えからはじまりました。

これまでにも鍛冶屋さんの弟子やカフェのオーナー後継者募集、地酒のラベルデザインなど、さまざまな仕事を紹介してきたきっかけワーク。それらを眺めていて、ふと「これまでに、どんな出会いが生まれているんだろう…?」ということが気になりはじめました。

そこで今回、きっかけワークのその後を取材させてもらうことに。

話を聞いたのは、日立市にある一級建築士アトリエ・暮らし図(外部サイトへリンク)の鯉渕健太(こいぶちけんた)さんと綿引尚(わたひきなお)さんです。おふたりは昨年6月に掲載したきっかけワークが縁で一緒に働きはじめたそう。

もともと綿引さんは絵やデザインを手がけてきた方で、建築はまったくの未経験だったといいます。それなのに、なぜ?そして、どうやって一緒に仕事を進めてきたのだろう?

そんな謎は、話を聞くうちに少しずつ紐解かれていきます。それと同時に、自分が「仕事」について抱えていた思い込みも、ほろほろと崩れていくような。心地よい時間でした。

これからの働き方や、仕事との向き合い方を考えたいという人。具体的に、茨城県北と関わるきっかけを探している人も。ぜひ読んでみてください。(新たなきっかけワークの情報も、記事末尾に掲載しています)

取材日:2020/11/12
※撮影時はマスクを外していただきました。

暮らし図の事務所があるのは、日立駅から車を20分ほど走らせたあたり。

風景に溶け込む階段をあがって、庭の先にあるインターホンを押す。やがて足音が聞こえてきて、玄関口で鯉渕さんと綿引さんが出迎えてくれた。

事務所の棚にはさまざまな本が、少し無造作に並べられている。

広々としたテーブルの角を挟む形で座り、話を聞いた。

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2012年に個人事務所を立ち上げた鯉渕さん。現在の株式会社暮らし図を設立したのは2018年のこと。

昨年のきっかけワークで綿引さんと出会うまでは、外部のパートナーと協力しながら、基本的にはひとりで仕事をしてきた。

鯉渕:メインは個人住宅です。住宅6〜7割、お店やその他の建築が3割くらいの割合ですね。顔の見える、小さなプロジェクトを大事につくっていこうっていうような形で仕事をしています。

綿引:わたしは週に2、3回ここに来ていて。それ以外の日は、個人で製本とか、絵を描く仕事をやっています。たとえば日立のお菓子屋さんのメニュー表を、手製本でつくらせてもらったり、自分の絵を使ってチラシをつくったりとか。

ーーなるほど。綿引さんは、もともとお住まいもこのあたりで?

綿引:全然地元ではなくて、生まれも育ちも東京です。両親が茨城出身だったこともあり、父が亡くなってからは、家族みんなが徐々に東京から茨城に移動しはじめて。わたしもすごく自然に、移り住むことを決めました。

ーー自然に。

綿引:一生こっちにいるとか、骨をうずめるみたいな気持ちでもなく、だからといって軽く、すぐ帰りますって感じでもなく。

ふと思いましたね。どこか違う場所に行っても、自分の仕事があれば生活できるのかな、みたいな気持ちもあって。

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東京にいたころは、セレクトCDのレンタルショップやカード会社、ギャラリーなどさまざまな環境で働くかたわら、個人の仕事も細々と受けていた綿引さん。

茨城への移住を機に、製本や絵の制作を本格的にはじめたという。

あるとき、きっかけワークの記事を見つけた。暮らし図の設計補助スタッフ募集だった。

綿引:建築にはなんの縁もゆかりもなく生きてきたんですけど、もしかしたらこれ、模型つくったりできちゃうのかなとか。ちょっとそれはなんか、おもしろいんじゃないかな、みたいな感じで。

ーー好奇心の赴くままに。

綿引:経験とかスキルは何にも該当しなかったんです。ちょっとでもお話聞いてもらえたらなあ、というつもりで、見つけてすぐに問い合わせました。

ーー募集した当時、鯉渕さんはどういう状況だったんですか。

鯉渕:仕事も増えてきて、一人じゃちょっと大変だなというタイミングで。

正社員ひとり採用するというよりは、半分くらいの仕事を手伝ってくれる人がいい。しかも建築学科卒とか、設計事務所に勤めたことのある方なら即戦力になる。でもそんな人いないなあって、ずっと悶々としてたんですね。

だからまずは幅広く募集しようと思って。なんと表現していいかわからなかったから、事務スタッフって書いてみたんです。

ーーそこにちょうど応募してきてくれたのが、綿引さんだった。

鯉渕:そうそう。綿引さんの履歴書やポートフォリオを見たときに、建築の専門者ではないけれども、どうやら絵が描けるようだと。センスというかね、そういうものを持っている人だなっていうのは分かったんです。もしかしたら、何か一緒にできるのかなと思いまして。

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当初から半年〜1年は様子見だろうと思っていた、と鯉渕さん。どんなふうにコラボレーションできるか、さまざまな形を試したそう。

なにやら資料を取り出して、見せながら話を聞かせてくれた。

鯉渕:最初はイラストから始まって。綿引さん、うまいんですよ。そこからどんどん、建築のパースも描ける?とか、もっと厳密な寸法のも描けるんじゃない?って、広がっていって。

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ーーあ、すごい。図面のなかに、身の回りの生活用品が描いてあります。

鯉渕:人間が描いてあったり、キッチンにはお鍋があったり。お客さんにプランを提案するとき、よりわかりやすくなるように、イラスト的な翻訳をしてもらっているんです。

ーーたしかにわかりやすいです。お客さんは、必ずしも建築に詳しいわけじゃないですもんね。

綿引:わたしも建築のことは知らずに入ったので、鯉渕さんの言ってることがさっぱり分からないときもあります。どういう意味だろうこれは、みたいな。

ーーイラストを建築に取り入れる難しさって、どういう部分ですか。

鯉渕:イラストレーターとか絵描きの人って、縮尺はそこまで厳密に考えず、自由に描くじゃないですか。ただ100分の1の図面で1センチ間違うと、それは1メートルの誤差になってしまう。そこのギャップを埋めるのが、最初すごく大変そうでした。

綿引:縮尺という概念がなかったので。文系で生きてきた身としては、冷や汗ものですよね。

ーーそうか、縮尺。雰囲気を伝えながらも、寸法が正確じゃないといけないんですね。

鯉渕:たとえば、この図面のなかにお母さんが描かれていますよね。この場合どうするかというと、わたしがポーズをとって、この吹き抜けの上から綿引さんが写真を撮り、それをなぞるんです。だからイラストレーションなんだけど、肩幅は44センチとか、ちゃんと建築的でもある。これって、綿引さんとだからこそはじめた手法なんですよ。

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試行錯誤を重ねるうち、手応えは確かなものに。お客さんからの反応も大きく変わった。

鯉渕:「こういう案です」ってお見せすると、うわあーっみたいな感じで。

この違いが、綿引さんがいるかいないかなんです。こっちは、いわゆる設計図ですよね。こっちが、暮らし図。

ーーおお! つまり、これこそ、鯉渕さんがつくりたかったもの。

鯉渕:専門家にしかわからない世界で空間をつくるんじゃなくて、家やお店をつくる人こそ、暮らしを図る当事者であってほしい。そう思って掲げたコンセプトが暮らし図なんです。それは本当に、綿引さんのおかげで目に見える形になってきた気がしています。

綿引:こうやって描くと、お客さんも入り込めるというか、想像しやすくなるかなって。その入り口をちょっとでも広げられたらいいな、と思ってやっています。

鯉渕:絵本作家さんと仕事しているみたいな気分なんです。自分が設計したものを絵にしてくれて、お客さんにプレゼンしたらすごく喜んでもらえる。建築っていう、工学的でロジカルに扱われがちなものを、綿引さんはたのしげにわかりやすく伝えてくれる。それだけで、家づくりがちょっと身近になるんですよね。

ーーおふたりは、仕事をお願いする・される関係というよりも、一緒につくっていっているような感じですよね。しかもそれは、妥協点を見つけるのではなくて、新しい価値をつくっている。すごいことだなと思います。

鯉渕:規模もちょうどよかったんだと思います。100人いるところに1人入っても影響力は小さいですけど、うちの会社は1人のところに1人入ったので(笑)。

1人が一気に会社のカラーを左右する。それは小さな会社の危うさでもあるんだけど、可能性でもあるなと思いますね。

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綿引さんにとって、この1〜2年は変化の年。

暮らし図で働きはじめたことに加えて、東京から茨城県北へ軸足を移したことも、自身の創作や生活に影響を与えているという。

綿引:集中はできます。夜も居酒屋に行くとか、そういう機会が減って。居酒屋、大好きなんですけどね。たまに東京に行って、友だちと予定いっぱいに詰め込んだ一日を過ごすっていうのが、すごくちょうどいい。

見える風景とか暮らしが、つくるものには必ずかかわってくると思っていて。絵を描くのも、自然光のもとでやると、やっぱりいいんですよね。周りは田んぼばかりだけど、こっちに来て、何もないとは思わないんです。

ーー自分のペースで何かをつくっていきたい人には、ちょうどいい環境でしょうね。

綿引:東京にいたころは延々起きていて、あれもやんなきゃ、これもやんなきゃっていう感じだったんですけどね。こっちでは日が出たら起きて、暗くなったら今日はおしまいです、お酒飲んで寝ます!みたいな(笑)。そういう自然のサイクルが、わたしにとってはすごくよいですね。

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綿引:ちょっと海まで行ってこようって思ったらすぐに行けるし、東京も行こうと思えば、全然遠くないです。

ーーたしかに、いいバランスかもしれません。

鯉渕さんは、このあたりのご出身なんですよね。事務所を開こうと思ったときに、戻ってくるのは自然な流れだったんですか?

鯉渕:都心より地方のほうが戸建て住宅って多いので、ぼくは仕事柄っていうのもありますかね。

別の観点で言うと、業界を意識しなくなった。業界から脱線しちゃったっていう感じはありますね。

ーー脱線しちゃった?

鯉渕:当初はすごくネガティブだったんですよ。東京での夢を諦めたような感覚が、少なからず自分のなかにあって。でも少しずつこっちで仕事をしていったら、自分が東京で見ていた“業界”とか“仕事”って、すごく狭い範囲のものだったなって。

生活者って、本当はどんな地域にもいて、みんなどういう家に住もうか、どんな空間をつくったらいいか悩んでる。だから糸口はどこにでもあるなと気付いたんです。“東京の廉価版の仕事を地方でしている”っていうマインドでいたら、きっと今でもつらかったし、あんまり前向きにはなれなかったけれど、もう、ガラッと意識は変わりましたね。

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きっかけワークを通じて、互いに刺激を与え合っているおふたり。初期の図面と直近の見取り図やパースを見比べると、その変化に驚かされる。

1年半と経たずにこれだけのことが起きているのだから、自然とその先も想像したくなってしまう。これからについて考えていること、やっていきたいことって、なんだろう。

鯉渕:たとえばこの図面も、動いたらいいなとか思うんですよ。この家の動線はこんなですよって説明するときに、お母さんがこう、トコトコトコ…って歩くとか。あとは手づくりの本をつくるのが、彼女の一番やりたいことなので、これを絵本にするとか。

ーーその絵本、読んでみたいです。チラシの間取り図を見るのが好きな人っていますよね。そういう人にとっては、グッとくる読みものになると思います。

鯉渕:打ち合わせに来たお客さんへのプレゼンにとどまらずに、世の中の人に、楽しい家づくりの方法をもっと開示したいっていう思いはあるんです。それが評価されれば、めぐりめぐってお仕事にもつながりますしね。

ただ、少し悩みの種を抱えていて…。

ーー悩みの種、というと?

鯉渕:綿引さんのおかげでプレゼン力は上がってきたものの、まずお客さんに知っていただくための、広告宣伝の手ごたえがなかなかなくて。Webのリニューアルを考えているんです。

今考えているのは、たとえば大子町の〇〇さんっていう大工さんと一緒にお店をつくりました、っていう情報を発信できたら、その大工さんの㏚にもなるし、うちの㏚にもなるし、新しくつくったお店の㏚にもなる。建築会社って、そうやって地域のハブになれるんじゃないかなと思っていて。

ぼくらは発信がどうも苦手で。だから今度は、建築はまったく知らないけど文章が書ける、っていう人とどうすれば仕事できるかなとか。そんなことを考えていますね。

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というわけで今回、新たなきっかけワーカーを募集することになりました。文章に限らず、さまざまな方法で、暮らし図の取り組みを発信していける人を求めています。

詳細は下記をご確認ください。自分は当てはまるのかな?と思っても、まずは綿引さんのように問い合わせてみるところから、何かがはじまるかもしれません。

また、今回取材をさせていただいて、暮らし図さんのような事例をもっと増やしていきたいと思いました。プロジェクトの内容や関わり方など、固まっていなくても構いませんので、きっかけワークに掲載したい、関心があるという方はこちらからお問い合わせください。(概要をお伺いして、後日取材・掲載させていただく場合には編集部よりご連絡いたします)

文・写真 中川晃輔

 

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