○茨城県子どもを虐待から守る条例

平成30年11月19日

茨城県条例第58号

茨城県子どもを虐待から守る条例を公布する。

茨城県子どもを虐待から守る条例

将来を担う子どもたちは,かけがえのない存在であり,全ての子どもが安心して暮らせる環境を整備することは,社会全体の責務である。私たちは,深い愛情を持って,子どもを大切に育てていかなければならない。

しかしながら,子どもが一番頼りにしている保護者などからの虐待は後を絶たず,尊い命が奪われる事件が多く発生するなど,虐待は,深刻かつ重大な問題となっている。

虐待は,子どもの人権に対する重大な侵害である。さらに,虐待を受けた子どもが親になったときに虐待をしてしまう虐待の連鎖も懸念されており,虐待は,理由のいかんにかかわらず,決して許されないことである。

虐待から子どもを守るためには,子どもの安全確保を最優先に,虐待の予防から早期発見,発生時の迅速な対応,虐待を受けた子どもの自立支援等に至るまで,切れ目のない支援を行う体制づくりが必要である。また,虐待を行った保護者等が再び虐待を行わないよう支援体制を整備していくことも重要である。

ここに,県,県民,市町村及び関係機関等が一体となって,全ての子どもが虐待から守られ,健やかに成長することができる社会の実現に向けて,たゆまぬ努力を重ねることを決意し,この条例を制定する。

(目的)

第1条 この条例は,子どもを虐待から守ること(以下「虐待防止」という。)に関し,基本理念を定め,県,保護者及び県民の責務並びに市町村及び関係機関等の役割を明らかにするとともに,虐待防止に関する施策の基本となる事項を定めることにより,虐待防止に関する施策を総合的かつ計画的に推進し,もって次代の社会を担う子どもが健やかに成長することができる社会の実現に寄与することを目的とする。

(定義)

第2条 この条例において,次の各号に掲げる用語の意義は,それぞれ当該各号に定めるところによる。

(1) 子ども 児童虐待の防止等に関する法律(平成12年法律第82号。以下「法」という。)第2条に規定する児童をいう。

(2) 虐待 法第2条に規定する児童虐待をいう。

(3) 保護者 法第2条に規定する保護者をいう。

(4) 関係機関等 学校,児童福祉施設,病院その他子どもの福祉に業務上関係のある団体及び学校の教職員,児童福祉施設の職員,医師,歯科医師,保健師,弁護士,社会福祉士その他子どもの福祉に職務上関係のある者をいう。

(基本理念)

第3条 虐待は,子どもの人権を著しく侵害する行為であり,何人も,虐待を決して行ってはならず,また,許してはならない。

2 虐待防止に当たっては,子どもの生命を守ることを最も優先するとともに,子どもの利益を最大限に考慮しなければならない。

3 虐待防止に関する施策及び取組は,県,保護者,県民,市町村及び関係機関等が,それぞれの果たすべき役割に応じて,相互に協力しながら一体的に行われなければならない。

4 虐待防止に関する施策及び取組は,保護者を孤立させない社会づくりを推進することが,虐待防止に重要であるとの認識の下に行われなければならない。

(県の責務)

第4条 県は,前条に規定する基本理念(以下「基本理念」という。)にのっとり,虐待防止に関する施策を策定し,及び実施するものとする。

2 県は,市町村又は関係機関等が実施する虐待防止に関する施策及び取組について必要な支援を行うものとする。

(保護者の責務)

第5条 保護者は,基本理念にのっとり,子育てについて第一義的責任を有していることを深く自覚しなければならない。

2 保護者は,基本理念にのっとり,体罰及び虐待を行わないよう,子育てについての正しい理解を深め,その子どもが健やかに成長することができるよう努めなければならない。

(県民の責務)

第6条 県民は,基本理念にのっとり,虐待を受けた子ども(虐待を受けたと思われる子どもを含む。第13条第2項において同じ。)を発見した場合は,速やかに通告(法第6条第1項の規定による通告をいう。以下同じ。)をしなければならない。

2 県民は,基本理念にのっとり,虐待防止に関する理解を深めるよう努めるものとする。

(市町村の役割)

第7条 市町村は,基本理念にのっとり,県及び関係機関等と連携し,虐待防止に関する施策の推進及び必要な体制の整備に努めるものとする。

(関係機関等の役割)

第8条 関係機関等は,基本理念にのっとり,県,市町村及び他の関係機関等と連携し,虐待防止に関する取組の推進に努めるものとする。

(警察への情報提供及び関係機関との連携)

第9条 知事は,子どもの安全を確保し適切な保護を図るため,児童相談所が把握した全ての虐待の事案に係る情報を提供する等により警察本部長との連携を強化し,及び協働して対応するものとする。

2 県は,虐待防止に関する施策を総合的かつ効果的に推進するため,市町村及び関係機関等との緊密な連携を図るとともに,必要があると認めるときは,保護者,県民その他関係者の協力を求めるものとする。

(基本計画)

第10条 知事は,虐待防止に関する施策を総合的かつ計画的に推進するため,虐待防止に関する基本的な計画を定めるものとする。

2 前項の計画は,次に掲げる事項について定めるものとする。

(1) 虐待防止に関する施策についての基本的な方針

(2) 虐待防止に関する目標

(3) 前2号に掲げるもののほか,虐待防止に関する施策を総合的かつ計画的に推進するために必要な事項

3 知事は,毎年度,虐待防止に関する施策の実施状況を議会に報告するとともに,これを公表するものとする。

(令5条例33・一部改正)

(啓発活動等)

第11条 県は,虐待防止に関する県民の理解を深めるため,広報その他の啓発活動を行うものとする。

2 県は,学校及び児童福祉施設が実施する虐待防止に関する教育又は啓発活動の推進を図るため,必要な措置を講ずるものとする。

3 虐待防止に関する県民の関心及び理解を深めるため,毎年11月を児童虐待防止推進月間とする。

(虐待の予防等のための措置)

第12条 県は,虐待の予防に資するため,子育て家庭に対する情報の提供その他の子育て支援に関する措置を講ずるものとする。

2 県は,虐待の予防及び早期発見に資するため,市町村が母子保健に関する事業を実施するに当たって,保護者等に対し,妊娠,出産,育児等の各段階に応じた支援を切れ目なく行うことができるよう,市町村に対する情報の提供その他の必要な措置を講ずるものとする。

(早期発見のための環境整備)

第13条 県は,虐待を早期に発見することができるよう,市町村及び関係機関等と緊密な連携を図るものとする。

2 県は,虐待を受けた子どもを発見した者が通告しやすく,かつ,虐待を受けた子どもの家族その他の者が相談しやすい環境を整備するものとする。

(通告に係る対応等)

第14条 児童相談所長は,虐待に係る通告又は相談があった場合には,子どもの生命を守ることを最も優先して行動しなければならない。

2 児童相談所長は,通告があった場合には,直ちに当該通告の内容に係る調査を行い,速やかに当該通告に係る子どもとの面会,面談等の方法により,法第8条第2項に規定する安全の確認を行うための措置(以下「安全確認措置」という。)を講ずるものとする。

3 前項に規定する子どもの保護者は,安全確認措置に協力しなければならない。

4 児童相談所長は,安全確認措置を講ずるに当たっては,必要に応じて,近隣住民,学校の教職員,児童福祉施設の職員,警察署員その他子どもの安全の確認を行うために必要な者に対し,協力を求めるものとする。

5 児童相談所長は,虐待に係る相談があった場合には,当該相談の内容に係る調査を行い,必要があると認めるときは,当該相談に係る子どもの安全を確認するものとする。

(通告に係る体制の整備等)

第15条 県は,通告を常時受けることができる体制を整備するものとする。

2 県は,虐待に係る通告又は相談を行った者及び安全確認措置に協力した者に不利益が生じないよう,必要な配慮をするものとする。

(安全の確認及び確保に関する協力要請)

第16条 知事は,法第9条第1項の規定による立入り及び調査若しくは質問,法第9条の3第1項の規定による臨検若しくは捜索又は同条第2項に規定する調査若しくは質問を行う場合において,必要があると認めるときは,警察署長又は市町村長に対し,子どもの安全の確認及び確保に関し協力を求めるものとする。

2 児童相談所長は,安全確認措置を行おうとする場合又は法第8条第2項第1号に規定する一時保護を行おうとし,若しくは行わせようとする場合において,必要があると認めるときは,警察署長又は市町村長に対し,子どもの安全の確認及び確保に関し協力を求めるものとする。

(転出及び転入等の場合における情報の共有)

第17条 県は,通告に係る子どもの安全の確保のため必要があると認めるときは,当該通告に係る市町村及び関係機関等(児童福祉法(昭和22年法律第164号)第25条の2第1項に規定する要保護児童対策地域協議会を構成するものに限る。)と,当該子ども及びその家庭に係る情報を共有し,及び活用するものとする。

2 県及び市町村は,子どもの保護を図るために必要な支援を行っている家庭等が他の市町村(特別区を含む。)へ転出等をする場合(県にあっては,児童相談所の管轄区域を異にする転出等の場合に限る。)は,当該家庭等に対する支援が継続的に提供されるよう,当該市町村の区域を管轄する児童相談所又は当該市町村への適切な引継ぎその他必要な措置を講ずるものとする。

3 県及び市町村は,子どもの保護を図るために必要な支援が行われている家庭等の転入等に係る引継ぎを受ける場合は,転入前の住所地を管轄する児童相談所又は市町村(特別区を含む。)等に対し,積極的に,必要な資料又は情報の提供を求める等により,迅速かつ的確に,当該子ども及び家庭の状況その他子どもの安全の確保に必要な情報を把握することができるよう努めるものとする。

(虐待を受けた子どもに対する援助)

第18条 県は,虐待を受けた子どもが虐待から守られ,かつ,良好な家庭的環境で生活できるようにするとともに,当該子どもの心身の健康の回復を図るため,当該子どもに対し,その年齢,心身の状況等を十分考慮して,必要な援助を行うものとする。

2 県は,虐待を受けた子どもが保護者となったときに良好な家庭環境を形成するよう,当該子どもに対し,その成長の過程において必要な援助を行うものとする。

(保護者に対する支援)

第19条 県は,市町村又は関係機関等と連携し,育児に不安を抱える保護者及び虐待を行った保護者が良好な家庭環境を形成し,又は再び虐待を行うことがないよう,これらの保護者に対し,必要な支援を行うものとする。

2 県は,虐待を受けた子どもの心身の健康の回復を図るため,当該子どもの保護者に対し,必要な支援を行うものとする。

(医療機関の連携協力体制の整備)

第20条 県は,虐待を受けた子どもがその心身の状況に応じた適切な医療を受けることができるよう,医療機関相互の連携協力体制の整備に努めるものとする。

(社会的養護の充実)

第21条 県は,虐待を受けた子どもに対する社会的養護の充実を図るため,乳児院,児童養護施設その他の児童福祉施設の確保及びこれらの施設における家庭的な養育環境の整備並びに里親制度の普及啓発,里親の養成等の推進に努めるものとする。

(子ども自身による安全確保への支援)

第22条 県は,子どもが虐待から自らの安全を確保することができるようにするため,子どもに対し,情報の提供その他の必要な支援を行うものとする。

(自立支援の充実)

第23条 県は,児童福祉法第27条第1項第3号の規定により,里親への委託,児童養護施設への入所その他の措置(同法第31条第5項の規定により同号の措置とみなされる場合を含む。)を講じた場合において,これらの措置を解除するときは,これらの措置を受けた者(同条第4項に規定する延長者を含む。)に対し,円滑に社会で自立することができるよう,必要な支援を行うものとする。

(児童福祉司の増員等による児童相談所の体制強化)

第24条 県は,虐待防止に関する施策の推進を図るため,児童福祉司等の専門的知識を有する職員の国の定める基準を超える人数の配置をはじめ,児童相談所の体制の強化に努めるものとする。

(人材の育成)

第25条 県は,虐待防止に関する施策又は取組を担う人材の専門性の向上を図るため,研修の機会の確保その他の必要な措置を講ずるものとする。

(地域における活動の推進)

第26条 地域において虐待防止に関する活動を行う団体及び者(次項において「地域で虐待防止に関する活動を行う団体等」という。)その他地域において子育ての支援に関する活動をしているものは,相互に協力し,地域における虐待防止に関する活動の推進に努めるものとする。

2 県は,地域における虐待防止に関する活動の促進を図るため,市町村及び関係機関等と連携し,地域で虐待防止に関する活動を行う団体等の育成,確保その他の必要な措置を講ずるよう努めるものとする。

(要保護児童対策地域協議会への支援)

第27条 県は,児童福祉法第25条の2第1項の規定により市町村が設置する要保護児童対策地域協議会の運営の充実を図るため,必要な支援を行うものとする。

(調査研究)

第28条 県は,虐待防止に関する施策及び取組を効果的に推進するための方策について調査研究を行うものとする。

(財政上の措置)

第29条 県は,虐待防止に関する施策を推進するため,必要な財政上の措置を講ずるものとする。

この条例は,平成31年4月1日から施行する。

(令和5年条例第33号)

この条例は、公布の日から施行する。

茨城県子どもを虐待から守る条例

平成30年11月19日 条例第58号

(令和5年9月29日施行)

体系情報
第6編 生/第2章 婦人児童/第1節 児童福祉,保護施設
沿革情報
平成30年11月19日 条例第58号
令和5年9月29日 条例第33号