○茨城県いじめの根絶を目指す条例
令和元年12月25日
茨城県条例第40号
茨城県いじめの根絶を目指す条例を公布する。
茨城県いじめの根絶を目指す条例
近年,いじめに起因する児童生徒の不登校や引きこもりなどが生じ,さらには児童生徒がいじめによって自らの命を絶つ痛ましい事件が発生するなど,深刻かつ重大な社会問題となっている。
いじめは,社会において,いつでもどこでも起こり得るものであり,誰もが被害者にも加害者にもなる可能性がある。
今こそ,いじめの根絶に向けて,いじめが全ての児童生徒に関係する問題であるという認識の下,児童生徒の尊厳を保持し,その生命及び心身を保護することを最優先に,いじめの未然防止をはじめ,いじめを早期に発見し,対処するための意識改革と仕組みづくりに全力で取り組む必要がある。
そのためには,知事,市町村長及び校長がリーダーシップを発揮し,県,市町村,学校及び県民が一体となって対策を展開することが不可欠である。
ここに,私たちは,児童生徒が健やかに成長することができる環境づくりを進めるため,「いじめをしない,させない,許さない。」という認識を広く県民が共有し,いじめの根絶に社会総がかりで取り組むことを決意し,この条例を制定する。
(目的)
第1条 この条例は,いじめ防止対策推進法(平成25年法律第71号。以下「法」という。)の趣旨を踏まえ,いじめの根絶を目指して,いじめの未然防止,いじめの早期発見及びいじめへの対処(以下「いじめの防止等」という。)のための対策に関し,基本理念を定め,県等の責務等を明らかにするとともに,県の施策に関する基本的な事項を定めることにより,いじめの防止等のための対策を総合的かつ効果的に推進し,もって児童生徒が健やかに成長することのできる環境の整備に資することを目的とする。
(1) いじめ 児童生徒に対して,当該児童生徒が在籍する学校に在籍している等当該児童生徒と一定の人的関係にある他の児童生徒が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む。)であって,当該行為の対象となった児童生徒が心身の苦痛を感じているものをいう。
(2) 学校 学校教育法(昭和22年法律第26号)第1条に規定する小学校,中学校,義務教育学校,高等学校,中等教育学校及び特別支援学校(幼稚部を除く。)をいう。
(3) 児童生徒 学校に在籍する児童又は生徒をいう。
(4) 保護者 親権を行う者(親権を行う者のないときは,未成年後見人)をいう。
(基本理念)
第3条 いじめの防止等のための対策は,全ての児童生徒が安心して楽しく学校生活を送り,学習その他の活動に取り組むことができるよう,学校の内外を問わずいじめが行われなくなるようにすることを目指して行われなければならない。
2 いじめの防止等のための対策は,児童生徒の生命及び心身を最優先で保護するため,国,県,市町村,学校,家庭,地域住民その他の関係者の連携の下,社会総がかりでいじめの問題を克服することを目指して行われなければならない。
3 いじめの防止等のための対策は,児童生徒が,一人一人の違いを理解し,自らを大切に思う気持ち及び他者を思いやる心を醸成し,いじめの問題について理解を深めることにより,いじめの防止等に向けた自主的な行動ができるようになることを目指して行われなければならない。
(いじめの禁止)
第4条 児童生徒は,いじめを行ってはならない。
(県の責務)
第5条 県は,第3条に規定する基本理念(以下「基本理念」という。)にのっとり,いじめの防止等のための施策を総合的に策定し,及び実施する責務を有する。
2 県は,前項の規定により,いじめの防止等のための施策を策定し,及び実施するに当たっては,国,市町村,学校の設置者その他の関係者と連携し,及び協力するものとする。
3 県は,市町村,学校の設置者,学校その他の関係者が,基本理念にのっとり,いじめの防止等のための対策を適切に実施することができるよう,情報の提供その他の必要な措置を講ずるものとする。
4 県は,いじめの防止等のための対策の促進を図るため,広報その他の啓発活動に努めるものとする。
5 県は,いじめに関する相談及び通報を受け付けるための体制を整備するものとする。
6 県は,社会総がかりでいじめの問題の克服に取り組むために,知事及び茨城県教育委員会(以下「県教育委員会」という。)の相互の緊密な連携の下,いじめの防止等のための対策を推進するよう努めるものとする。
(市町村の役割)
第6条 市町村は,基本理念にのっとり,国,県その他の関係者と協力しつつ,当該地域の状況に応じたいじめの防止等のための施策を策定し,及び実施するよう努めるものとする。
2 市町村は,社会総がかりでいじめの問題の克服に取り組むために,市町村長及び市町村の教育委員会(以下「市町村教育委員会」という。)の相互の緊密な連携の下,いじめの防止等のための対策を推進するよう努めるものとする。
(学校の設置者の責務)
第7条 学校の設置者は,基本理念にのっとり,その設置する学校におけるいじめの防止等のための対策について,自らが第一義的に実施すべき立場にあることを踏まえ,必要な措置を講ずるよう努めるものとする。
(学校及び校長その他の教職員の責務)
第8条 学校及び校長その他の教職員は,基本理念にのっとり,当該学校に在籍する児童生徒の保護者,地域住民,児童相談所,関係団体その他の関係者との連携を図りつつ,学校全体でいじめの未然防止及び早期発見に取り組むとともに,いじめを認識した場合又はいじめの疑いがあると認められる場合には,適切かつ迅速にこれに対処しなければならない。
2 学校及び校長その他の教職員は,いじめに類する行為をしてはならず,かつ,基本理念にのっとり,教職員の言動が児童生徒に与える影響を十分に理解して授業その他の教育活動を行わなければならない。
3 学校及び校長その他の教職員は,基本理念にのっとり,児童生徒に対し,いじめを行ってはならないことについて,分かりやすく教育するよう努めなければならない。
4 学校及び校長その他の教職員は,基本理念にのっとり,いじめの問題を抱え込むことなく,第1項の関係者と連携し,いじめを受けている児童生徒が支援を求めやすい環境を整備するよう努めなければならない。
5 校長は,学校のいじめの防止等のための対策について,所属の教職員を監督し,基本理念にのっとり,いじめのない当該学校の運営が行われるよう努めなければならない。
(保護者の責務)
第9条 保護者は,子の教育について第一義的責任を有するものであることを自覚し,いじめの防止等について自ら学ぶとともに,その保護する児童生徒がいじめを行うことのないよう,当該児童生徒に対して,自らを大切に思う気持ち及び他者を思いやる心を醸成し,並びに規範意識を養うための教育その他の必要な教育を行うよう努めるものとする。
2 保護者は,その保護する児童生徒がいじめを受けた場合には,適切に当該児童生徒をいじめから保護するものとする。
3 保護者は,その保護する児童生徒がいじめを行った場合には,これを直ちにやめさせるとともに,当該児童生徒に対し,いじめを繰り返さないために必要な教育を行うよう努めるものとする。
4 保護者は,児童生徒の変化に気付き,迅速に対応するよう努めるものとする。
5 保護者は,学校と連携していじめの防止等に取り組むとともに,国,県,市町村,学校の設置者及び学校が講ずるいじめの防止等のための対策に協力するよう努めるものとする。
(県民の役割)
第10条 県民は,いじめの防止等のための対策に取り組み,地域社会全体で児童生徒の健全な育成を支えていくよう努めるものとする。
2 県民は,いじめを認識した場合又はいじめの疑いがあると認められる場合には,県,市町村,学校その他の関係機関に通報するよう努めなければならない。
3 県民は,それぞれの活動の場及び地域社会において,児童生徒の模範となるよう,いじめの根絶に努めるものとする。
(茨城県いじめ防止基本方針)
第11条 県は,法第12条の規定により,いじめの防止等のための対策を総合的かつ効果的に推進するための基本的な方針(以下「茨城県いじめ防止基本方針」という。)を定めるものとする。
2 県は,いじめを取り巻く社会状況等の変化に適切かつ迅速に対応するため,定期的に茨城県いじめ防止基本方針を検証し,必要に応じこれを変更するものとする。
3 県は,茨城県いじめ防止基本方針を定め,又は変更したときは,遅滞なくこれを公表するものとする。
(学校いじめ防止基本方針)
第12条 学校は,法第11条第1項に規定するいじめ防止基本方針又は茨城県いじめ防止基本方針若しくは法第12条の規定により市町村が定めるいじめ防止基本方針を参酌し,当該学校の実情に応じたいじめの防止等のための対策を総合的かつ効果的に推進するための基本的な方針(次項において「学校いじめ防止基本方針」という。)を定めるものとする。
(いじめの未然防止)
第13条 県は,いじめの未然防止を図るため,市町村,学校その他の関係者と連携し,基本理念にのっとり,児童生徒の豊かな情操と道徳心を培うための教育活動の充実を図るものとする。
2 県は,家庭及び地域社会において,いじめの未然防止のための取組が促進されるよう,啓発その他の必要な措置を講ずるものとする。
3 前2項に定めるもののほか,県は,いじめの未然防止に資するよう,市町村その他の関係者と連携し,幼稚園,保育所及び認定こども園並びに家庭において,幼児期から,いじめを行ってはいけないことについて,分かりやすい教育が行われるよう努めるとともに,基本理念に準じて,幼児の道徳性と規範意識の芽生えが養われるよう努めるものとする。
(いじめの早期発見及び対処に関する相談体制等)
第14条 県は,いじめの早期発見及びいじめへの対処を図るため,市町村,学校その他の関係者と連携し,児童生徒,保護者,学校の教職員等がいじめに関する相談及び通報を安心して行うことができるよう,相談体制の整備及び充実,相談窓口の周知その他の必要な措置を講ずるものとする。
2 県は,前項に規定する相談及び通報に迅速に対応することができるよう,体制の整備その他の必要な措置を講ずるものとする。
3 県は,いじめについて相談しやすい環境を確保するため,ソーシャルネットワーキングサービスその他のインターネットを活用した相談体制の整備に努めるものとする。
4 県は,市町村,学校その他の関係者と連携し,いじめに関する情報の収集を行い,その実態を的確に把握するよう努めるものとする。
(学校でのいじめの相談,通報等)
第15条 児童生徒は,自分がいじめを受けた場合又は他の児童生徒に対して行われるいじめを認識した場合若しくはいじめの疑いがあると認められる場合には,直ちに教職員に相談し,又は通報するように努めるものとする。
2 学校は,いじめを早期に発見するため,定期的に,当該学校に在籍する児童生徒に調査を行うものとする。
3 校長その他の教職員は,前2項の規定による相談,通報等によりいじめが疑われる場合には,相談者等の秘密の保持に十分配慮しつつ,いじめを放置することがないよう直ちに適切な処置を講ずるものとする。
(いじめに対する措置)
第16条 県は,いじめに起因して不登校になっている児童生徒について,市町村,学校その他の関係者と連携し,当該児童生徒の心身の状況に応じて,学習活動等の場の確保,相談その他の支援措置を講ずるものとする。
2 県は,いじめから児童生徒の生命及び心身を最優先で保護するため,助けを求める児童生徒の思いをしっかりと受け止めることに意を尽くし,市町村,学校,家庭その他の関係者と連携し,適切に対応するものとする。
3 学校及び校長その他の教職員は,法第23条第2項の規定に基づき,いじめの事実の有無の確認を行うための措置及び当該学校の設置者への報告を適切に行うものとする。
4 学校及び校長その他の教職員は,いじめが犯罪行為として取り扱われるべきものであると認めるときは,法第23条第6項の規定に基づき,所轄警察署に通報し,適切に援助を求めるものとする。
5 学校及び校長その他の教職員は,いじめを受けた児童生徒等が安心して教育を受けられるようにするため,法第23条第4項の規定に基づき,いじめを行った児童生徒について,いじめを受けた児童生徒とは別の場所で学習を行わせる措置その他の必要な措置を適切に講ずるものとする。
6 県は,いじめを受けた児童生徒等が安心して教育を受けられるようにするため,市町村教育委員会が法第26条の規定に基づき,いじめを行った児童生徒の出席停止の措置その他の必要な措置を適切に行うよう,必要な指導,助言又は援助を行うよう努めるものとする。
7 学校又は市町村教育委員会は,前2項の規定による措置を行った場合には,いじめを行った児童生徒の学習に対する支援その他の教育上必要な措置を講ずるものとする。
8 県は,いじめを受けた児童生徒及びその保護者が法第28条第1項に規定する重大事態の調査の内容を知ることの重要性に鑑み,市町村教育委員会及びその設置する学校が,いじめを受けた児童生徒及びその保護者に対し同条第2項の規定による情報の提供を適切に行うよう,市町村教育委員会に対し,必要な指導,助言又は援助を行うよう努めるものとする。
(教職員の資質の向上及び人材の確保)
第17条 県は,いじめの防止等のための施策を適切かつ効果的に行うため,教職員に対する研修の充実を図り,その資質の向上に努めるものとする。
2 県は,いじめの防止等のための対策が専門的知識に基づき適切に行われるよう,カウンセラー,ソーシャルワーカー,弁護士その他の心理,福祉,法律等に関する専門的知識を有する人材を確保し,学校の求めに応じて派遣する等により,学校の支援に努めるものとする。
(インターネットを通じて行われるいじめの防止等)
第18条 県は,スマートフォンその他の携帯電話端末等によりソーシャルネットワーキングサービスその他のインターネットを通じて行われるいじめの防止等を図るため,市町村,学校その他の関係者と連携し,児童生徒に対するインターネットの適切な利用に関する教育,保護者への啓発その他の必要な措置を講ずるものとする。
(啓発活動)
第19条 県は,社会総がかりでいじめの防止等に取り組むため,いじめが児童生徒の心身に及ぼす影響,いじめを防止することの重要性,いじめに係る相談制度及び救済制度等について必要な広報その他の啓発活動を行い,県民の理解を深めるよう努めるものとする。
2 県は,いばらき教育の日を定める条例(平成16年茨城県条例第35号)第3条に規定するいばらき教育月間において,いじめの防止等についての関心と理解を深めるための啓発活動を重点的に実施するよう努めるものとする。
(茨城県いじめ問題対策連絡協議会)
第20条 法第14条第1項の規定に基づき,県教育委員会に茨城県いじめ問題対策連絡協議会(以下「協議会」という。)を置く。
2 協議会は,県教育委員会,学校,市町村教育委員会,児童相談所,水戸地方法務局,茨城県警察本部その他の関係者により構成する。
3 協議会は,次の事項を協議する。
(1) 県,市町村及び学校におけるいじめの防止等のための施策の推進に関する事項
(2) いじめの防止等に関係する機関,団体等の連携に関する事項
(3) 前2号に掲げるもののほか,いじめの防止等のために必要な事項
4 前3項に定めるもののほか,協議会の組織及び運営に関し必要な事項は,県教育委員会が定める。
(いじめ調査委員会)
第21条 県は,法第28条第1項の規定により県立学校に係る調査を行うため,県教育委員会にいじめ調査委員会(以下「調査委員会」という。)を置く。
2 県は,県立学校において,いじめにより当該県立学校の児童生徒の生命,心身若しくは財産に重大な被害が生じた疑いがある場合又は当該児童生徒が相当の期間学校を欠席することを余儀なくされている疑いがある場合には,調査委員会において適切かつ迅速に対処するものとする。
3 前2項に定めるもののほか,調査委員会の組織及び運営に関し必要な事項は,県教育委員会が定める。
(年次報告)
第22条 知事は,毎年度,いじめの防止等に関して講じた施策の実施状況及び成果を取りまとめ,議会に対し報告するとともに,これを公表するものとする。
(令5条例36・追加)
(推進体制の整備)
第23条 県は,この条例に基づくいじめの防止等のための対策を総合的かつ効果的に推進するため,当該対策に係る体制を整備するよう努めるものとする。
(令5条例36・旧第22条繰下)
(財政上の措置)
第24条 県は,この条例に基づくいじめの防止等のための対策を推進するため,必要な財政上の措置を講ずるよう努めるものとする。
(令5条例36・旧第23条繰下)
付則
この条例は,令和2年4月1日から施行する。
付則(令和5年条例第36号)
この条例は、公布の日から施行する。