○茨城県ケアラー・ヤングケアラーを支援し、共に生きやすい社会を実現するための条例

令和3年12月14日

茨城県条例第60号

茨城県ケアラー・ヤングケアラーを支援し、共に生きやすい社会を実現するための条例を公布する。

茨城県ケアラー・ヤングケアラーを支援し、共に生きやすい社会を実現するための条例

様々な世代や立場で、家族や身近な人に対し、介護、看護、日常生活上の世話等のケアを行っているケアラーは、ケアを受ける人を支える上で、重要な役割を果たしている。

しかしながら、ケアに伴う過大な精神的、身体的、経済的負担により、ケアラーの日常生活に支障が生じ、さらには、社会から孤立するなど、ケアがケアラー自身の活動や生き方に深刻な影響を及ぼすおそれも考えられる。

とりわけ日常的にケアを行っている子どもたち、ヤングケアラーは、年齢や成長の度合いに見合わない重い責任や負担を負うことで、教育や人格形成に影響を及ぼし、人生の選択肢が狭められること等が懸念される。

こうした中、我々は、児童の権利に関する条約及び児童の福祉に関する関係法令の理念にのっとり、ヤングケアラーの健やかな育成、教育の機会の確保等を図るとともに、全てのケアラーとケアを受ける人が、誰一人取り残されず、共に安心できる生活を送り、自分らしい人生を歩んでいくことができるよう、ケアを家族等だけの問題にとどまらない世代を超えた社会問題として認識し、ケアラーを社会全体で支えていく必要がある。

ここに、ヤングケアラーをはじめとする多様なケアラーを支え、もって県民誰もが生きやすい社会の実現を目指して、この条例を制定する。

(目的)

第1条 この条例は、ヤングケアラー及びこれらの者を含む全てのケアラーの支援に関し、基本理念を定め、県の責務を明らかにするとともに、ケアラーの支援に関する施策の基本となる事項を定め、とりわけ次代の社会を担うヤングケアラーの教育の機会の確保等が図られるとともに、ケアラーの個人の尊厳が重んぜられ、かつ、社会から孤立しないよう支えることにより、全ての県民が生きやすい社会を実現することを目的とする。

(定義)

第2条 この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。

(1) ケア 介護、看護、日常生活上の世話その他の援助をいう。

(2) ケアラー 心身の機能の低下、負傷、疾病、障害その他の理由により援助を必要とする家族、身近な人その他の者に対して、無償でケアを行う者をいう。

(3) ヤングケアラー 前号に該当する18歳未満の者をいう。

(4) 関係機関 介護、福祉、医療、保健、教育その他これらに類する分野の業務を行い、その業務を通じて、日常的にケアラーに関わる可能性がある団体又は個人をいう。

(5) 民間支援団体 ケアラーの支援を行うことをその目的とする民間の団体をいう。

(6) 学校 学校教育法(昭和22年法律第26号)第1条に規定する小学校、中学校、義務教育学校、高等学校、中等教育学校及び特別支援学校(幼稚部を除く。)をいう。

(基本理念)

第3条 ケアラーへの支援は、全てのケアラーの個人の尊厳が重んぜられ、その生活においてケアと自己の幸福追求との調和を図ることを旨として、行われなければならない。

2 ケアラーへの支援は、家族や身近な人など住民相互の助け合いを尊重しつつも、ケアラーが孤立することのないよう、多様な主体の相互の連携及び協力の下、ケアラーとその家族を社会全体で支え合うことを旨として、行われなければならない。

3 ヤングケアラーへの支援に当たっては、特に社会において自立的に生きる基礎を培い、次代の社会を担う力を養う重要な年齢であることに鑑み、適切な教育の機会を確保し、かつ、その心身の健やかな成長及び発達並びにその自立が図られるように十分配慮されなければならない。

(県の責務)

第4条 県は、前条に定める基本理念(以下「基本理念」という。)にのっとり、ケアラーの支援に関する施策を総合的に策定し、及び実施する責務を有する。

2 県は、ケアラーの支援における市町村及び民間支援団体の役割の重要性に鑑み、市町村及び民間支援団体がケアラーの支援に関する施策を実施する場合には、助言その他の必要な支援を行うものとする。

3 県は、ヤングケアラーがその福祉を保障される権利を有する年齢であることに鑑み、必要な支援が早期かつ円滑に行われるよう配慮するとともに、その健やかな成長が図られるよう、その発達段階、生活環境、特性その他の状況に応じて、必要な支援を継続的に行うよう努めるものとする。

(県民の理解)

第5条 県民は、あらゆる機会を通じてケアラーの支援の必要性についての理解と関心を深めるとともに、ケアラーが孤立することのないように十分配慮するよう努めるものとする。

2 県民は、ヤングケアラーの支援の必要性についての理解と関心を深めるとともに、必要な支援が早期かつ円滑に行われるよう、それぞれの立場において十分配慮するよう努めるものとする。

(事業者の協力)

第6条 事業者は、基本理念にのっとり、ケアラーの支援の必要性についての理解を深め、その事業活動を行うに当たっては、県及び市町村が実施するケアラーの支援に関する施策に協力するよう努めるものとする。

2 事業者は、その雇用し、又は雇用しようとする者がケアラーである可能性があることを認識し、ケアラーの就労の促進及び継続に資するよう、その就労とケアとの両立に資する環境の整備に努めるものとする。

3 県は、普及啓発その他の前項の整備の促進に関する支援を行うものとする。

(関係機関の役割)

第7条 関係機関は、基本理念にのっとり、県及び市町村が実施するケアラーの支援に関する施策に積極的に協力するよう努めるものとする。

2 関係機関は、その業務を通じて日常的にケアラーに関わる可能性がある立場にあることを認識し、その者がケアラーであると認められるときは、その意思を尊重しつつ、健康状態及び生活環境を確認し、支援の必要性の把握に努めるものとする。

3 関係機関は、支援を必要とするケアラーに対し、情報の提供、支援を行う機関の紹介その他の必要な支援を行うよう努めるものとする。

4 教育に関する業務を行う関係機関は、特にその業務を通じて日常的にヤングケアラーに関わる可能性がある立場にあることを認識し、その者がヤングケアラーであると認められるときは、その意思を尊重しつつ、教育の機会の確保の状況、健康状態及び生活環境を確認し、支援の必要性の早期の把握に努めるとともに、早期の適切な支援につながるよう必要な措置を講ずるよう努めるものとする。

(市町村との連携等)

第8条 県は、ケアラーの支援に関する施策の策定及び実施に当たっては、基本理念にのっとり、市町村の主体的な取組を積極的に支援するとともに、市町村及び民間支援団体と相互に密接な連携及び協力を図るよう努めるものとする。

2 県は、ヤングケアラーの支援に関する施策の策定及び実施に当たっては、ヤングケアラーを早期に発見し、早期に適切な支援につなぐことができるよう、教育、福祉その他の行政分野における横断的な連携体制の構築及び学校間の連携を強化するために必要な施策を講ずるよう努めるものとする。

(推進計画)

第9条 知事は、ヤングケアラー及びこれらの者を含む多様なケアラーの支援に関する施策を総合的かつ計画的に推進するための計画(以下この条において「県推進計画」という。)を策定するものとする。

2 県推進計画は、次に掲げる事項について定めるものとする。

(1) ケアラーの支援に関する基本方針

(2) ケアラーの支援に関する具体的施策

(3) 前2号に掲げるもののほか、ケアラーの支援に関する施策を推進するために必要な事項

3 知事は、県推進計画を策定しようとするときは、あらかじめ、ケアラーの意見を反映させるために必要な措置を講ずるものとする。

4 知事は、県推進計画を策定したときは、遅滞なくこれを公表するものとする。

5 前2項の規定は、県推進計画の変更(軽微な変更を除く。)について準用する。

(ケアラーの支援)

第10条 県は、ケアラーの生活の質を維持向上させるとともに、ケアラー及びその家族の日常生活上及び社会生活上の不安、負担等を軽減させるため、次の事項に関し、必要な施策を講ずるものとする。

(1) ケアラーの支援に関する一元的な相談体制の整備及びその周知に関すること。

(2) ケアに関する相談、手続その他の行為に係るケアラーの負担を軽減するための情報通信技術の活用に関すること。

(3) ケアラーが休息若しくは休養を要する場合又は社会通念上やむを得ない事由によりケアができなくなった場合における一時的にケアを提供する取組その他の必要な支援に関すること。

(4) 社会生活を円滑に営む上での困難を有するケアラーに対する修学又は就業に関する支援に関すること。

(5) ケアラー及びケアを受ける人の家族に対する包括的な支援に関すること。

(6) ケアの方法等に関する理解を深めるために必要な情報の提供、研修の実施その他の普及啓発に関すること。

(7) 交流の場の提供その他のケアラーが互いに支え合う活動の促進に関すること。

(8) ヤングケアラーの教育の機会の確保に関すること。

(9) 前各号に掲げるもののほか、ケアラーを支援するために必要な事項に関すること。

2 県及び市町村は、ヤングケアラーの権利利益が害されることがないよう、ヤングケアラーに対する差別、いじめ及び虐待の防止のための対策を推進するものとする。

(人材の育成等)

第11条 県は、ケアラーの支援が適切に行われるよう、相談、助言、日常生活及び社会生活の支援その他のケアラーの支援を担う人材の育成及び確保に必要な施策を講ずるものとする。

2 県は、カウンセラー、ソーシャルワーカーその他のケアラーの支援に関する専門的知識を有する人材の育成及び確保並びにその適正な配置に必要な施策を講ずるものとする。

(普及啓発)

第12条 県は、ケアラーに対する支援の重要性等について県民の理解と関心を深めるため、家庭、学校、職域、地域その他の様々な場を通じて、広報活動、研修の充実その他の普及啓発を行うものとする。

(民間支援団体の活動に対する支援)

第13条 県は、民間支援団体が行うケアラーの支援に関する活動を支援するため、情報の提供、助言その他の必要な施策を講ずるものとする。

(実態調査等)

第14条 県は、ケアラーの状況を把握し、ケアラーの支援に関する施策を効果的かつ効率的でその状況に応じたものとするため、定期的に、必要な調査を行うものとする。

2 県は、ケアラーの支援について、先進的な取組に関する情報その他の情報を収集し、及び提供するよう努めるものとする。

(年次報告)

第15条 知事は、毎年度、ケアラーの支援に関して講じた施策の実施状況及び成果を取りまとめ、議会に報告するとともに、これを公表するものとする。

(推進体制の整備)

第16条 県は、ケアラーの支援に関する施策を総合的かつ計画的に推進するために必要な体制を整備するよう努めるものとする。

(財政上の措置)

第17条 県は、ケアラーの支援に関する施策を推進するため、必要な財政上の措置を講ずるよう努めるものとする。

この条例は、公布の日から施行する。

茨城県ケアラー・ヤングケアラーを支援し、共に生きやすい社会を実現するための条例

令和3年12月14日 条例第60号

(令和3年12月14日施行)