○茨城県性暴力の根絶を目指す条例

令和4年11月21日

茨城県条例第43号

茨城県性暴力の根絶を目指す条例を公布する。

茨城県性暴力の根絶を目指す条例

(目的)

第1条 この条例は、性暴力の根絶、性暴力により被害を受けた者の心身に受けた影響からの回復の支援等に関し、基本理念その他の基本となる事項を定め、県の責務を明らかにすることにより、法令及び茨城県犯罪被害者等支援条例(令和4年茨城県条例第20号)に定めるもののほか、これらに関する施策を総合的に推進し、もって県民が安心安全な生活を営むことができる社会の実現に寄与することを目的とする。

(定義)

第2条 この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。

(1) 性暴力 性犯罪、配偶者等暴力、セクシュアル・ハラスメント、デジタル性暴力その他の特定の者の身体又は精神に対する性的な行為又はこれに準ずる行為であって、その者の意に反して、又はその者の同意があっても対等ではない関係において行われることにより、その者の性的な問題を自ら決定する権利又は性的な問題に関し、その者の身体、精神、名誉、尊厳その他その者の権利利益を害するものをいう。

(2) 性犯罪 次に掲げる罪をいう。

 刑法(明治40年法律第45号)第176条から第181条までの罪、同法第225条の罪(わいせつの目的である場合に限る。)、同法第228条の罪(同法第225条の罪に係るものに限る。)、同法第230条第1項及び第231条の罪(その犯罪事実が前号に該当するものに限る。)、同法第241条第1項及び第3項の罪並びに同法第243条の罪(同法第241条第3項の罪に係るものに限る。)

 児童福祉法(昭和22年法律第164号)第60条第1項の罪

 児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(平成11年法律第52号)第4条及び第7条の罪

 盗犯等の防止及び処分に関する法律(昭和5年法律第9号)第4条の罪(刑法第241条第1項の罪に係るものに限る。)

 私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律(平成26年法律第126号)第3条第1項から第3項までの罪

(3) 配偶者等暴力 配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(平成13年法律第31号)第1条第1項に規定する配偶者からの暴力をいう。

(4) セクシュアル・ハラスメント 他の者に不快若しくは嫌悪の情を催させる性的な言動(性的な関心や欲求に基づく言動をいい、性別による固定的な役割分担についての意識、性別を理由とする不当な差別又は性的指向若しくは性自認に関する偏見に基づく言動を含む。)により当該他の者の修学、就業その他社会生活上の環境を害すること及び当該言動に対する当該他の者の対応により当該他の者に不利益を及ぼすことをいう。

(5) デジタル性暴力 第2号に該当するもののほか、その者の意に反して、又は同意があっても対等ではない関係において、その者に係る性的な画像その他を記録した電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下この号において同じ。)を作成し、保存し、第三者に提供し、その他当該電磁的記録の利用により、その者の日常生活又は社会生活に不利益を及ぼすことをいう。

(6) 二次的被害 茨城県犯罪被害者等支援条例第2条第4号に規定する二次的被害のうち、性暴力に関するものをいう。

(7) 民間支援団体 性暴力の根絶又は性暴力により心身に受けた影響からの回復の支援に関する活動を行う民間の団体をいう。

(8) 子ども 18歳未満の者をいう。

(9) 保護者 親権を行う者、未成年後見人その他の者で、児童を現に監護する者をいう。

(基本理念)

第3条 性暴力は、個人の尊厳を著しく侵害し、その心身に長期にわたり重大な悪影響を及ぼすものであり、県民の幸福な人生を送る権利と安心安全な生活を根底から脅かす極めて悪質な行為であるため、何人も、性暴力をしてはならず、また、許してはならない。

2 性暴力の根絶に当たっては、性暴力による被害を受けた者を守り、社会全体で支えることを第一とし、性暴力による被害を受けた者に責任があるとするような誤った認識や性暴力による被害を受けた者に対する不当な差別又は偏見を払拭し、二次的被害の防止に最大限の配慮をするとともに、性暴力による被害を受けた者の意思及び立場を尊重することを基本とするものとする。

3 子どもに対する性暴力は、本来保障されるべき健全な成長発達を阻害し、生涯にわたってその幸福な人生を送る権利と安心安全な生活を根底から脅かすこととなる極めて重大な人権の侵害であるとともに、自らこれを回避することや心身に受けた影響からの回復に多大な困難さが考えられる。よって、その防止や早期発見はもとより、被害を受けた子どもの迅速な保護等のために、保護者との連携の下、県、市町村、民間支援団体、医療機関、法的援助に関する専門家、教育に関する職務に従事する者等の関係者及び地域住民をもって、必要な支援を適切に行うことにより、性暴力の根絶を目指すものとする。

(県の責務、役割等)

第4条 県は、前条に定める基本理念(以下「基本理念」という。)にのっとり、市町村、民間支援団体、医療機関、法的援助に関する専門家、教育に関する職務に従事する者その他の関係者及び地域住民との適切な役割分担を踏まえ、性暴力の根絶、性暴力により心身に受けた影響からの回復の支援等に向けた施策を総合的に策定し、実施する責務を有するとともに、第1条の目的達成のため、各種施策をもってその役割を果たさなければならない。

(総合的な相談体制の整備等)

第5条 県は、県民からの性暴力に関する相談に総合的に応ずることができるよう体制を整備し、相談に適切に対応するため、次の事項に関し、必要な施策を講ずるものとする。

(1) 性暴力の防止及び性暴力により心身に受けた影響からの回復に関する専門的知識及び技術を有する者による相談への対応

(2) 性暴力の防止及び性暴力により心身に受けた影響からの回復に資する制度、専門的な機関その他の情報の提供又は仲介

(3) 医療機関又は警察への付添い及び助言、医療上の措置及び証拠の保全に係る援助その他の性暴力により被害を受けた直後に必要となる支援

(4) 性暴力の防止及び性暴力により心身に受けた影響からの回復に資する法的援助、心理的な負担の軽減その他の必要と認められる支援

(5) 性暴力の防止及び性暴力により心身に受けた影響からの回復に関する相談に総合的に応ずるため必要となる専門的知識及び技術を有する者の養成

2 県は、前項の体制を整備し、施策を講ずるに当たっては、市町村、民間支援団体、医療機関、法的援助に関する専門家、教育に関する職務に従事する者その他の関係者及び地域住民と連携協力し、必要な支援が早期かつ適切に行われることを旨として、取り組むものとする。

3 県は、性暴力に関する相談に応じるに当たっては、相談者の意思及び立場を尊重し、かつ、秘密の保持に最大限の注意を払って対応するものとする。

(性暴力により心身に受けた影響からの回復の支援等)

第6条 県は、茨城県犯罪被害者等支援条例に定める施策の実施に当たっては、性暴力により被害を受けた者の心身に受けた影響からの回復の支援等に関し、その被害の特性に応じた支援について必要な配慮を加えるものとする。

2 県は、茨城県犯罪被害者等支援条例第8条第1項の支援計画の策定に当たっては、性暴力による被害の特性に応じた支援について検討し、必要な施策を定めるよう努めるものとする。

3 県は、茨城県犯罪被害者等支援条例第11条に定める施策を講ずるに当たっては、特に性暴力をした者から性暴力により被害を受けた者を隔離するため必要があると認める場合において、当該被害を受けた者の居所に関する個人情報の保護について十分配慮するとともに、必要と認められる期間における安全な居住の確保に関し、必要な措置を講ずるものとする。

(性犯罪の再発防止、社会復帰のための支援等)

第7条 県は、性犯罪を犯した者が、その責任等を自覚し、性犯罪がもたらす深刻な影響を理解し、及び社会復帰のために努力することが重要であるとの認識の下に、性犯罪を犯した者が申し出たときは、当該者に対し、再び性犯罪を犯すことを防止するための治療又は円滑な社会復帰のための措置を受けることができるよう支援するものとする。

2 県は、前項の申出を勧奨する措置を講ずるものとする。

3 第1項の治療又は措置に要する費用は、性暴力から県民を守る観点から、予算の範囲内において県が支弁するものとする。

4 県は、前3項に掲げるもののほか、性暴力の根絶に当たっては、性暴力を行った者が、その責任等を自覚し、性暴力がもたらす深刻な影響を理解し、及び再び性暴力を行わないために努力することが重要であるとの認識の下に、性暴力を行った者からの相談に応じ、再び性暴力を行うことの防止又は円滑な社会復帰に資する情報の提供、研修の実施、医学的又は心理学的な援助その他の必要な支援をするものとする。

5 県は、性暴力を行った者に対し、再び性暴力を行うことの防止及び社会復帰のための相談を受けやすい環境を整えるとともに、相談の勧奨に努めるものとする。

6 県は、前各項に規定する支援等を行うに当たっては、性暴力により被害を受けた者に関する個人情報の保護について特に留意するとともに、性暴力を行った者と性暴力により被害を受けた者が遭遇することがないよう必要な措置を講ずるものとする。

7 県は、第1項から第5項までに規定する支援等に関して取得した個人情報を、守秘義務に関する法令の規定の遵守その他その取扱いに対する高い意識の下に、適切に取り扱わなければならない。

8 県は、再犯の防止等の推進に関する法律(平成28年法律第104号)第8条第1項の地方再犯防止推進計画において、性暴力の特性に応じた支援について検討し、必要な施策を定めるよう努めるものとする。

(住居の届出)

第8条 特に子どもに対する性犯罪は、次代の社会を担う子どもの健全な育成を根底から脅かすものであり、これが県民生活に与える深刻な影響に鑑み、子どもに対する性犯罪を行った者が、その再犯防止に向け最大限の努力を尽くすことは社会において果たすべき責務であることから、子どもに対し、第2条第2号アからまで及びに掲げる罪(同号ウに掲げる罪にあっては、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律第7条第4項の罪に限る。)を犯し、懲役又は禁錮に処せられ、その執行を受けた者は、その執行を終わった日(その刑の一部の執行を猶予された場合にあっては、その刑のうち執行が猶予されなかった部分の期間の執行を終わった日)から5年を経過する日前に県の区域内に住居を定めたときは、その日から14日以内に、規則で定めるところにより、次に掲げる事項を知事に届け出るものとする。

(1) 氏名

(2) 住居の所在地

(3) 性別

(4) 生年月日

(5) 連絡先

(6) 届出に係る罪名

(7) 刑期の満了した日

2 知事は、前項及び次項の届出に係る情報を、当該届出をした者が再び性犯罪をすることの防止又は当該届出をした者の円滑な社会復帰のための情報提供、助言、指導その他の支援の目的以外に使用してはならない。

3 第1項の届出をした者は、その届け出た事項に変更を生じたときは、変更の日から14日以内に、その旨を知事に届け出なければならない。県の区域外に転居しようとする場合も同様とする。

4 県は、第1項の届出をした者に対し、前条第2項の措置を特に重点的に講ずるものとする。

(性暴力への県民の理解促進と社会的気運の醸成のための広報啓発等)

第9条 県は、性暴力の根絶に向けた取組、性暴力により心身に受けた影響からの回復の支援の必要性及び二次的被害が生じることのないよう配慮することの重要性について県民の理解と関心を深めるため、広報活動、啓発活動その他の必要な施策を講ずるものとする。

2 県は、前項の施策を講ずるに当たっては、性暴力の根絶が県民生活に密接に関わるものであり、県民の理解と協力を得つつ推進されるべきものであることに鑑み、性暴力の根絶に自主的かつ積極的に取り組む社会的気運の醸成に努めるものとする。

3 県は、民間支援団体の活動を促進するため、情報の提供又は助言、性暴力の根絶又は性暴力により心身に受けた影響からの回復の支援に関する事例の紹介その他の必要な施策を講ずるものとする。

(性暴力の根絶のための人材の育成)

第10条 県は、この条例に定める施策の実施に携わる者に対し、性暴力の根絶、性暴力により心身に受けた影響からの回復の支援等に関し必要な専門的知識及び技術について、研修の実施、情報の提供その他の必要な施策を講ずるものとする。

2 県は、子どもに対する性暴力を防止し、又は早期に発見し、及びその被害を受けた子どもを迅速に保護するとともに、性暴力により心身に受けた影響からの回復への適切な支援を図るため、教育に関する職務に従事する者に対し、性暴力への適切な対処に関する知識及び技術、第5条第1項の体制との連携の方法その他の必要な事項について、研修の実施、情報の提供その他の必要な施策を講ずるものとする。

(県民の役割)

第11条 県民は、基本理念にのっとり、性暴力の根絶、性暴力により心身に受けた影響からの回復の支援等の必要性についての理解を深めるよう努め、並びに性暴力による被害及び二次的被害を生じさせ、又は助長することのないよう配慮するとともに、県及び市町村が実施する性暴力の根絶、性暴力により心身に受けた影響からの回復の支援等に関する施策に協力するよう努めるものとする。

(市町村の役割)

第12条 市町村は、基本理念にのっとり、県、民間支援団体、医療機関、法的援助に関する専門家、教育に関する職務に従事する者その他の関係者及び地域住民との連携協力の下、性暴力の根絶、性暴力により心身に受けた影響からの回復の支援等に関する取組を推進するよう努めるとともに、性暴力の根絶、性暴力により心身に受けた影響からの回復の支援等に関して、住民の理解を促進するよう努めるものとする。

(医療機関の役割)

第13条 医療機関は、性暴力により被害を受けた者が受診したときは、その個人情報の保護に十分に配慮するとともに、医療上の措置のほか、証拠の保全への協力、心理的な負担の軽減、性暴力により心身に受けた影響からの回復の支援等に関する情報の提供その他当該者の状況に応じた適切な対応に努めるものとする。

2 県の設置する医療機関は、前項の対応に必要な情報の提供その他の支援並びに第5条第1項の施策並びに第7条第1項及び第4項の支援に関し、必要な措置を構ずるよう努めるものとする。

(事業者の役割)

第14条 事業者は、基本理念にのっとり、性暴力の根絶、性暴力により心身に受けた影響からの回復の支援等の必要性についての理解を深め、その事業活動を行うに当たっては、性暴力による被害及び二次的被害を生じさせ、又は助長することのないよう十分に配慮するとともに、県及び市町村が実施する性暴力の根絶、性暴力により心身に受けた影響からの回復の支援等に関する施策に協力するよう努めるものとする。

2 事業者は、その事業所において、性暴力による被害又は二次的被害を生じさせ、又は助長することのないよう労働環境の整備その他雇用管理上必要な措置を講じるよう努めるとともに、その従業員から性暴力による被害又は二次的被害について申出があったときは、適切に対応するよう努めるものとする。

(デジタル性暴力の根絶)

第15条 県は、デジタル性暴力の根絶に向け、県民のデジタル性暴力の危険性及びこれを防止するための方法を理解し、及び適正にインターネットを利用する能力を向上させるため、県民の年齢その他その置かれている状況に応じた講習の実施、情報の提供その他必要な施策を講ずるものとする。

2 県民は、デジタル性暴力の危険性についての理解を深めるとともに、前項の能力の向上に努めるものとする。

(性暴力の根絶に資する総合的な教育の推進等)

第16条 県及び市町村は、その設置する学校教育法(昭和22年法律第26号)第1条に規定する学校(次項において「学校」という。)に在籍する子ども、就学前の子どもに関する教育、保育等の総合的な提供の推進に関する法律(平成18年法律第77号)第2条第6項に規定する認定こども園(次項において「認定こども園」という。)に在籍する子ども(3歳以上の者に限る。)及び児童福祉法(昭和22年法律第164号)第39条第1項に規定する保育所(次項において「保育所」という。)に在籍する子ども(3歳以上の者に限る。)並びにこれらの子どもの保護者に対して、その発達の段階に応じた性暴力の根絶に資する総合的な教育又は啓発を行うよう努めるものとする。

2 国立大学法人法(平成15年法律第112号)第2条第1項に規定する国立大学法人、私立学校法(昭和24年法律第270号)第3条に規定する学校法人その他学校、認定こども園又は保育所を設置する法人(国、県及び市町村を除く。)は、前項の規定に準じて、必要な取組を行うよう努めるものとする。

(市町村に対する支援)

第17条 県は、市町村が適切かつ効果的に性暴力の根絶、性暴力により心身に受けた影響からの回復の支援等に関する取組を推進することができるよう、これらに関する情報の提供又は助言その他の必要な施策を講ずるものとする。

(年次報告)

第18条 知事は、毎年度、性暴力の根絶、性暴力により心身に受けた影響からの回復の支援等に関して講じた施策の実施状況及び成果を取りまとめ、議会に対し報告するとともに、これを公表するものとする。

(令5条例32・追加)

(推進体制の整備)

第19条 県は、この条例に基づく性暴力の根絶、性暴力により心身に受けた影響からの回復の支援等に関する施策を総合的かつ効果的に推進するため、必要な体制を整備するよう努めるものとする。

(令5条例32・旧第18条繰下)

(財政上の措置)

第20条 県は、性暴力の根絶及び性暴力により心身に受けた影響からの回復の支援に関する施策を推進するため、必要な財政上の措置を講ずるよう努めるものとする。

(令5条例32・旧第19条繰下)

(施行期日)

1 この条例は、公布の日から施行する。ただし、第7条及び第8条並びに次項の規定は、規則で定める日から施行する。

(令和5年規則第17号で令和5年4月1日から施行)

(経過措置)

2 第8条第1項の規定は、同項に規定する刑の執行を終わった日が前項ただし書に規定する規定の施行の日以後である者について適用する。

(検討)

3 県は、この条例の施行後適当な時期において、この条例の施行の状況について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。

(令和5年条例第32号)

この条例は、公布の日から施行する。

茨城県性暴力の根絶を目指す条例

令和4年11月21日 条例第43号

(令和5年9月29日施行)