酒造好適米「ひたち錦」

生物工学研究所普通作育種研究室

研究の背景とねらい

茨城県内には54の酒造会社があり、それぞれ特色のある日本酒を製造しています。酒造組合からは茨城県産米を原料として独自ブランドの日本酒を造り、茨城県産の日本酒のイメージアップおよび販売の拡大を図りたいとの強い要望があります。一方、茨城県で栽培されている「美山錦」などの酒造好適米(以下、酒米)は、熟期や耐倒伏性など栽培特性および品質に難点がありました。このため、生産・実需の両方から、茨城県に適する高品質で栽培しやすい酒米の育成を開始しました。

品種の特徴

(写真1:ひたち錦等の標本)

茨城県で初めて育成された酒米品種の「ひたち錦」は出穂期および成熟期が「コシヒカリ」より6日および8日程度遅い晩生の品種です。長稈ですが、稈が太く強稈のため耐倒伏性に優れています(写真)。
いもち病抵抗性は「美山錦」および「山田錦」に対して明らかに優れています。イネ縞葉枯病には抵抗性を有しています。穂発芽はしにくく、収量は「日本晴」と同様に多収です。

図2:醸造のために削り込んだ米

(写真2:醸造のために削り込んだ米)

一方、玄米は大粒、蛋白質含量が低く、心白粒の発現率が高く、心白の大きさは小から中の粒が多く、酒米としての特性に優れています(写真)。
「ひたち錦」を原材料とした日本酒は、透明感の高いすっきりとした味に仕上がります。

育成の経緯

図3:ひたち錦の系譜

(図:ひたち錦の系譜)

「ひたち錦」は大粒で心白の発現が良い「岐系89号」を母、倒伏に強く病害にも強い「月の光」を父として人工交配を行い、その後代から育成された品種です(図3)。
平成3年に交配を行い、玄米の大きさおよび心白の発現率を重視して、選抜を進め、収量性・品質等が優れていることから「い系酒50」と名付けました。平成10年に「ひたち酒17号」と命名し、農業研究所での栽培特性試験および工業技術センター・酒造会社での醸造試験を経て、平成13年に奨励品種として採用されました。

ピュア茨城

それぞれの水と技で個性を競い合う「ピュア茨城」

現在も、茨城県酒造組合において茨城県産の「ひたち錦」、茨城県のオリジナル酵母及び茨城の5大水系(久慈川、那珂川、筑波山、鬼怒川、利根川)の豊かな水を使用した純粋な茨城ブランドのお酒造り「プロジェクト・ピュア茨城」を継続中です。

育成の裏話

飯米品種の両親から生まれた「ひたち錦」

「岐系89号」は蛋白質含量が低く、飯米品種としては玄米に心白が出やすいという特性を持っていました。また、「月の光」は粒大は並で光沢が良く、透明度の高い品種でした。「この組み合わせから酒米ができないだろうか?」という期待を持ち、両親の優れた特性を上手に生かして従来の酒米に比べて栽培特性を向上させることができました。酒米として利用する以外に、ご飯として食べていただくこともできます。さらに、おかゆにすると雑味がなくさっぱりとした味わいになります。