グラジオラス「プリンセスサマーイエロー」

生物工学研究所果樹・花き育種研究室

研究の背景とねらい

茨城県のグラジオラス生産量は、切り花生産が全国3位、球根生産では全国1位と、トップクラスの産地となっています。県ではそのニーズに応え、産地活性化を図るためにオリジナル品種の育成を進めています。グラジオラスはフラワースタンドや大きめのアレンジメントなどに好適で、特に弔事・ブライダルの現場で重宝されています。
「プリンセスサマーイエロー」は、らせん状に花が咲く個性的な草姿であり、花束など広い用途に適したグラジオラスとして育成しました。

品種の特徴

「プリンセスサマーイエロー」の特徴

  • 早生の中輪系品種です。
  • 小花が上向きに咲きます。
  • らせん状に花がつき、全方向から観賞が可能です。
  • 花弁の地色が黄色で先端部がオレンジ色です。
写真:「プリンセスサマーイエロー」の花

(写真1:「プリンセスサマーイエロー」)

以上が従来のグラジオラスにみられない草姿であることから、業務用のみならず、花束やフラワーアレンジメントなどの新たな需要にも対応出来ます。
また、促成・露地季咲き・抑制のいずれの作型にも適応性が認められます。
小花が上向き咲きでらせん状につくため全方向から観賞できる新しいタイプのグラジオラスです。

育成の経緯

平成5年に、赤橙色で中輪系の「ショウバンド」を母親に、黄色で大輪系の「サンレイ」を父親として交配し、平成7年に開花した実生34系統の中から、露地季咲き栽培において花色・草姿に優れることを条件に選抜しました。
平成11年に病害虫の発生が少なく球根増殖性の良好な1系統を「生研3号」として選抜し、平成12年に園研で生育特性調査を実施し有望と認められ、「ひたち3号」となりました。
さらに、平成13年に現地適応性試験と市場評価を実施し有望と認められ、また、平成12年から14年にかけて特性調査を行い、品種登録の要件である区別性、均一性および安定性を確認しましたので、品種候補として育成を完了しました。
平成16年5月に品種登録を出願し、平成19年3月15日に「プリンセスサマーイエロー」の品種名で登録されました(品種登録番号第15211号)。

写真2:圃場で咲く様子

(写真2:圃場で咲く様子)

その特徴的な花型だけでなく栽培においても、作型適応性が広いこと、採花率が高いことなど優良な特性が多く、生産者からも高い評価を受けています。

写真3:「圃場に咲く選抜候補」

(写真4:「圃場に咲く選抜候補」)

一面に咲くたくさんの候補の中から、色形だけでなく、開花時期や収量性、病害虫の発生などさまざまな特性を調査して品種候補を選抜します。

育成の裏話

「プリンセスサマーイエロー」は、小花が上向きでらせん状に開花するという、大変ユニークな特性を持つグラジオラスです。
現在は民間の種苗会社からも同様の特性を持つ品種が販売されるようになっていますが、「プリンセスサマーイエロー」が育成中であった当時はまだ珍しく、消費者に受け入れられるかどうか賛否両論がありました。
しかし、育成の中心となったT研究員は、育成の早い段階から、ユニークな花型に注目していました。
意見が分かれる中、ある時20代半ばの女性研究員の「かわいい!私なら買う!」と言った一言で流れが決まり、品種候補となりました。

「プリンセスサマーイエロー」は、その特徴的な花型だけでなく、栽培においても作型適応性が広いこと、採花率が高いことなど優良な特性が多く、生産者からの高い評価を受け、平成18年度の集計では、県内グラジオラス生産量の10パーセント弱を占めるまでになりました。将来を見据えた消費者ニーズの把握がいかに重要であるかを改めて実感させられた例と言えます。

(写真5:「現地検討会の様子」)

交配して咲かせた、たくさんのグラジオラスから何度も選抜を重ねて品種候補が選ばれ、さらに実際に圃場を見るなどして何度も会議にかけられて優良であると判断され、やっと品種登録となります。