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写真1:霞ヶ浦北浦の夏のワカサギ「ナツワカ」
霞ヶ浦北浦のワカサギは自然分布の太平洋側の南限とされ、古くから湖を代表する魚として親しまれてきました。かつては自然の風を推進力とする帆びき網漁業(現在では観光操業のみ)により漁獲され、当時を知る人によると湖上に浮かぶ数百艘の帆びき船はまさに壮観だったとのことです。昭和40年代からは動力漁船による底びき網(通称トロール)漁業への導入・転換が進み、現在では7月~12月のトロール漁業で漁獲されるようになりました。
江戸時代に麻生藩(現在の行方市)から将軍家に焼きワカサギを献上したところ大変喜ばれ、将軍家御用達の魚、御公儀の魚ということで「公魚」と書くようになったと言われています。平成7年には「茨城県の淡水魚」にも選定されている湖のシンボルです。
写真2:帆びき網漁業
写真3:トロール漁業
全国有数のワカサギの産地である茨城県(表1)ですが、県内生産量のうち、ほとんどが霞ヶ浦北浦で漁獲されています。また、他県のワカサギの主要産地では主に秋にワカサギ漁が解禁となるのに対し、霞ヶ浦北浦では全国に先駆けて7月21日から解禁されることから、ワカサギは“夏の味覚”ともなっています。
(参考:ワカサギの主要産地の解禁日)
小川原湖:(青森県)9月頃~、網走湖(北海道):9月頃~、八郎湖(秋田県):10月頃~
表1:ワカサギ生産量(内水面)・都道府県別順位(単位:トン)
|
平成27年 |
平成28年 |
平成29年 |
平成30年 |
令和元年 |
全国 |
1,417 |
1,181 |
943 |
1,146 |
981 |
1位 |
青森 570 |
青森 519 |
青森 419 |
青森 463 |
青森 414 |
2位 |
北海道 287 |
秋田 209 |
北海道 214 |
北海道 259 |
北海道 226 |
3位 |
茨城 281 (うち霞北273) |
北海道 179 |
秋田 155
|
秋田 238 |
秋田 126 |
4位 |
秋田 242 |
茨城 177 (うち霞北177) |
茨城 92 (うち霞北92) |
茨城 98 (うち霞北98) |
茨城 119 (うち霞北119) |
5位 |
長野 9 |
長野 12 |
長野 9 |
長野 15 |
長野 17 |
一般的には”冬“のイメージが強いワカサギですが、霞ヶ浦北浦のワカサギはなんと“夏”に最も脂のりがよく(図1)、7月~8月の“初物”でもある夏のワカサギを「ナツワカ」と称し、旬の味覚としてPRしています。食用油の入手が難しかった頃は、漁師さんがナツワカを茹でて煮干しを作る際に、浮いた油を集めて農家さんの育てた野菜と物々交換し、揚げ物などに使っていたそうです。
図1:霞ヶ浦産わかさぎ(100gあたり)の脂質の季節変化(平成28年調べ)
調査依頼者:霞ヶ浦北浦水産振興協議会
エサとなるプランクトンが豊富な霞ヶ浦北浦で育つワカサギは成長が早く、骨が柔らかいことから“丸ごと”食べやすいのが特徴です。中でもナツワカは成長過程なので、特に丸ごと食べやすいと言えます。
丸ごと食べることで、カルシウムなどのミネラル成分も効率よく摂取でき、さらにはEPAやDHAについても、霞ヶ浦北浦のナツワカは標準的なワカサギの成分をいずれも大きく上回っていることから、栄養価の高い食品と言えます(図2)。
図2:わかさぎ(100gあたり)の脂質含有量
ナツワカを塩水で茹でて天日干しした煮干は、タンパク質やカルシウムがさらに凝縮され、栄養を効率的に摂取できる優れた食品です(表2)。「煮干し」というと、多くの方は出汁用のイリコを連想するようですが、霞ヶ浦北浦産の煮干しはそのまま食べるのが正解!!漁師さんによると昔は冷蔵設備も無かったことから、ナツワカを日持ちするよう乾燥させて「煮干し」にし、農作業の合間などにおかずやおつまみとして食べていたそうです。
表2:霞ヶ浦産わかさぎ(煮干100gあたり)の分析結果
品目/成分項目 | 廃棄率 | エネルギー | 水分 | タンパク質 | 脂質 | 炭水化物 | 灰分 | カルシウム | EPA | DHA | 備考 | |
% |
kcal |
g |
g |
g |
g |
g |
mg |
mg |
mg |
|||
霞ヶ浦産わかさぎ (H28.7分析) |
(煮干) | 0 | 170 | 60.5 | 25.1 | 7.7 | 0 | 7.1 | 1,080 | 470 | 510 | ※1 |
霞ヶ浦産わかさぎ (H28.7分析) |
(生) | 0 | 154 | 72.9 | 14.4 | 10.7 | 0 | 2.2 | 515 | 620 | 580 | ※1 |
わかさぎ (日本食品標準成分表) |
(生) | 0 | 77 | 81.8 | 14.4 | 1.7 | 0.1 | 2 | 450 | 130 | 240 | ※2 |
※1 試験依頼者:霞ヶ浦北浦水産振興協議会 試験依頼先:一般財団法人日本食品分析センター
※2 日本食品標準成分表2015年版(文部科学省)
写真4:天日干し中のワカサギ煮干し
ナツワカは煮干で食べるのはもちろん,軽く片栗粉をまぶして唐揚げにしたり,かき揚げなどにしても美味しく食べることができます。
他にも下図のような料理や加工品もオススメです。
写真5:ワカサギの南蛮漬け
写真6:ワカサギ煮干し
写真7:ワカサギ佃煮
ナツワカは全国各地に向け出荷され、スーパーや鮮魚店などで購入できるほか、飲食店などでも提供されています。また霞ヶ浦北浦周辺で食べられるお店、買えるお店については、霞ヶ浦北浦水産振興協議会の「味わいマップ」(外部サイトへリンク)で紹介しています。また、漁の解禁日には「ワカサギ解禁市」という漁師さんのイベント(霞ヶ浦漁協ホームページ(外部サイトへリンク))もあります。