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更新日:2019年3月11日

箒をつくるその手は伝統をつなぐ手になる / 河合の箒(前編)

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河合の箒

映画『河合の箒』と「種継人の会」

私が河合の箒(かわいのほうき)を知ったのは『河合の箒』という一本の映画からでした。

河合の箒とは、常陸太田市下河合町で昔から手仕事で作られている箒のこと。農閑期を利用した副業として生まれ、発達してきました。久慈川と里川との合流地点にある下河合町では、台風による洪水の被害に悩まされてきたといいます。箒の材料となるホウキモロコシは丈が二メートルくらいにもなり水害の被害も少なく、河川より運ばれる肥沃な土壌でよく育ちました。常陸太田市の歴史を調べてみると江戸時代の末期から箒は作られています。しかし、昔は盛んだった箒作りも今では横山有寿(よこやま ゆうじ)さん・宮子さんご夫妻の一軒残すのみになってしまいました。この伝統を絶やすまいと在来作物の保存活動に取り組む「種継人の会」の活動の甲斐あって、最近では箒作りを学ぶ人たちの取り組みや箒の良さを再認識する人たちが増えてきているようです。

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横山宮子さんが作った”櫛形”と呼ばれる箒。「河合の箒」は、櫛形、半手などいくつかの種類がある。(写真:種継人の会)

私が河合の箒を知ったきっかけとなったドキュメンタリー映画『河合の箒』を制作したのは、この「種継人の会」で、布施大樹さんが代表を努めています。有機農業を営む布施さんは2013年、山形県の在来作物をテーマにしたドキュメンタリー映画『よみがえりのレシピ』の自主映画会を機に同会の活動を開始。人の営みと共に歩んできた在来作物の保存に取り組んでいます。常陸太田に昔から伝わる作物品種の種子を探していたときに箒の原料となるホウキモロコシと出会い、箒を作り続ける横山夫妻の存在を知ります。伝統の技を途絶えないさせなよう取り組みはじめ、二年間、横山夫妻の元に通いながら、畑での種まきから箒を編み上げるまでの行程をひとつずつ学んできました。学ぶだけでなく、映像として残したいと一年目の姿を記録して、メンバーの一人が映画を完成させました。

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右から『種継人の会』代表 布施大樹さん、横山有寿さん、宮子さん(写真:種継人の会)

映画の中で印象的だったのは、横山有寿さんがいとも簡単に箒を編んでいく姿に対し、布施さんたちが奮闘しながら箒作りを教わっている様子でした。箒作りは一朝一夕で習得できるものではありません。箒作りの難しさが映像から伝わってきました。職人さんたちは長い年月をかけ作り続けていくことで技を自分のものにしていくのです。

しかし、箒をつくる技術がいくら素晴らしいものであったとしても引き継ぐ人がいなければここで途絶えてしまう。私は映画を観ることで運良く知ることができたけれど、地元でも知らないひとがほとんど。伝統をつないでいくにはどうすればよいのだろうか。映画を観終えたあとに、ぼんやりそう感じました。

種からつくる箒

映画でみた河合の箒のことはすっかり忘れていたある日、常陸太田の鯨ヶ丘の一角で、いろんな糸で施された可愛い箒に出会いました。それは「くじら屋」というお店に並んだ小さな箒でした。

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写真は旧くじら屋。現在は数百メートル先に移転。

作り手の、糸は何色にしようかと、あれこれ工夫しつつ楽しみながら作っている様子が想像できる、手に取ってみたくなる箒でした。

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旧くじら屋で売られていた「まいぶるーむ」の箒。糸を植物で染めたものも。

お店のスタッフにたずねてみると、それらの箒を作っているのは「まいぶるーむ」というグループだということを知りました。

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左から、石川明美さん、柏京子さん、横山美加さん、右奥ひろはらちえこさん、円仏郁子さん。旧くじら屋さんにて(写真:種継人の会)

まいぶるーむのメンバーは、石川明美さん、柏京子さん、横山美加さん、ひろはらちえこさん、円仏郁子(えんぶつ いくこ)さん、中島麻智子さんの6人。また、メンバーではありませんが、種継人の会で活動する川又忠啓(かわまた ただひろ)さんも加わり、7人で箒作りに励んでいます。「種継人の会」の活動の趣旨に賛同したメンバーは箒作りを学ぶために自主的に集まって練習会を始めたのがきっかけ。箒づくりを学びながら、箒作りのワークショップを開催して他のひとにも作りかたを教えたり、作った箒をくじら屋の一角で販売したりしています。みなさんがなぜこの活動を始めたのかきっかけを聞いてみました。

石川さん「箒を作るようになったのは市報に載っていた “ミニ箒づくりのワークショップ ”の募集を見たのがきっかけです。その募集を見た時にはすでに終わっていて、でもどうしても箒つくりをやりたくて、布施さんに電話をしました。その時次回声かけますよ、と言っていただいて。2回目のワークショップに参加しました。箒は母が毎日箒で掃除をしていたから、身近なものでしたし、作ってみたいなと思いました」

 

種継人の会では2014年から横山夫妻の援農、河合の箒を広める活動をしています。その活動の一つにミニ箒づくりのワークショップがありました。

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箒作りのワークショップと販売の会場。2018年12月に鯨ヶ丘で行われたイベント『12月倉』にて。(写真:種継人の会)

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ワークショップの様子。まいぶるーむのメンバーが作りかたを教えています。(写真:種継人の会)

ひろはらさん「私もワークショップに参加したのがきっかけです。箒が自分で作れるの?!という驚きがありました。連絡してみると“畑で草作りからすることが参加できる条件ですが大丈夫ですか?”と聞かれて、“大丈夫ですよ”と答えました」

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石川さんの畑にて。2017年から自分たちでも草づくりを始めました。この日は9月20日、メンバーが集まり2回目の刈り取りです。

柏さん「私は図書館へ行った時に偶然、種継人の会が開催していた太田の特産品の試食会があったんですよ。かぼちゃがあったり、ゴマがあったり、色々試食させてもらいました。そこに箒もありました。(横山)宮子さんもきていました。あずきの種を育ててみたいと思い種を譲ってもらうことに。後で布施さんが種を届けてくれて。その時に“種継人の会にはいりませんか?”と言われて入りました。箒のことは何も知らなかったんです。」

 

横山美加さん(以下 美加さん)「最初は興味はなくてあまりピンときてなかったんです。昔、夫の祖父が箒を作っていたり、娘が小学校の授業で、箒づくりを体験してきたり。“近所に箒を作っているおばあちゃんがいるんだって。”という話も娘から聞いていて。身近に箒の存在はあったんですね。ものづくりが好きで、ものづくりができる人になりたいという思いはありました。ワークショップに参加したとき宮子さんの話を聞いて何か突き動かされるものがありました。箒づくりをしている残り一軒なんだ、と」

美加さんは下河合地区に住んでいます。下河合地区は箒づくりが盛んだった地域。美加さんのご主人のおじいさんは田んぼや畑仕事をする傍ら農閑期には箒づくりをし、おばあさんが飾り編みをしていました。出来上がった箒はおばあさんが次の日、水郡線に乗って大子の方まで売りにいっていたそうです。

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種継人の会が行なっている活動の一つ、幸久小学校にて『地域を知る授業』で箒作りを教えている。

円仏さんもワークショップがきっかけでした。そのころ円仏さんはくじら屋のスタッフとして働いていました。それは箒をくじら屋で販売するきっかけにもなりました。唯一販売に関われているのは円仏さんで「こういうのが欲しかった」と喜んで買っていくお客さんの姿を直接感じれることは大きい、と話してくれました。

川又さん「ものづくりがやりたいなと思っていたとき、布施さんから紹介してもらって参加しました。宮子さんの畑を手伝っていてこれは大変な作業だな、こんなに大変なんだったら草をもらうわけにはいかない、と思ったんです。箒を作るためには草作りも自分でやらなくちゃいけないな、と」

  

川又さんは自分で畑を開拓し、箒を作るための草づくりに取り組み始めています。

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職人さんに箒づくりを教えてもらっているところ

種をつないでいく

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種は穂を収穫せずに残し、実が黒く熟して白っぽい粉を吹くようになってから刈り取ります。

最初は、箒を自分で作れるという興味で集まり、そこから「まいぶるーむ」として活動を始めたメンバー。河合の箒という昔から伝わる伝統とよばれるものについて、皆さんはどう受けとめているのでしょうか。

「まずは作り続けることが第一。種を途絶えさせないように蒔いて、そして伝承者になることが私たちの役目だと思って活動している。できれば川又くんのように若い人やみんなが伝承者になってくれればいいな。作り続けることが大事」(石川さん)

 

箒の魅力は素材の美しさ、使い心地、形の美しさ、作る作業は集中して無心になれること。そしてメンバーとのおしゃべりも楽しみだといいます。みんな口をそろえて「まいぶるーむという仲間がいたから続けてこれた」と。

 

〈後編へつづく〉

河合の箒は「くじら屋」でのみ販売されています。実際手に取って納得して購入してほしいという思いから、通信販売はありません。

くじら屋
所在地  〒313-0052 茨城県常陸太田市東二町2224
電 話  070-4002-5508
定休日  水曜日、日曜日

 

 

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フォトグラファー
都内スタジオ勤務後フリーに。
子供が小学生になるタイミングで不規則な写真の仕事から離れる。
2014年茨城にUターン。写真の仕事を再開する。

 

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