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更新日:2016年5月19日

スギ幼齢林の幹の凍害と防除に関する研究

研究報告No.10(要旨)

 わが国の代表的な造林樹種であるスギの凍害は九州から北海道南部まで,ほとんど全国的に発生し,造林推進上,大きな問題となっている。この研究は耐凍性の立場からスギの幹の基部の凍害のおこる機構をしらべ,防除対策を確立することを目的として行ったものである。以下に実施した調査および実験結果の摘要を述べる。

1.スギの凍害と耐凍性

1)スギの凍害は先枯と幹の基部の凍害に大別できるが,幼木の凍害は幹の基部におこる場合が多い。
 スギの幹の凍害は山間部の低凹地,沢沿い,斜面下部などのいわゆる冷気流の停滞しやすい地形や平坦台地および南斜面に発生しやすい。被害の軽微な場合には,幹の基部の南側の形成層のみが局所的に害されるが,激害地では幹の基部の形成層が全周にわたって害されるだけでなく,地表面から30~50cmの高さまで害される場合も少なくない。同一被害地でも被害の程度は個体によってかなり異なる。

2)凍害の発生は形成層の褐変によって確認できる。北関東では凍害は幹の基部の耐凍度が低い11月中旬~下旬頃のきびしい冷え込みのときにおこる。なお,水戸付近の凍害常習地の気象観測の結果,スギの凍害は11月中旬には-5~-6℃,11月下旬には-8~-9℃の冷え込みで発生している。

3)越冬中のスギ幼齢木の幹は夜間は凍結するが日中はとけ気温より数度高くなる。とくに幹の地表面から上方5~10センチメートルの部位は40~50cmの部位にくらべて,夜間4℃近くも低くなる。

4)スギの幹の基部は上部より耐凍性がかなり低い。しかも形成層の耐凍度が幹の組織中もっとも低い。

5)スギは水戸では11月中旬~11月下旬に始めて-5℃の凍結に耐えるようになる。12月中旬以降,耐凍度は,急速に高まり,1月下旬~2月上旬に-25~-27℃の最高値に達する。なお,3月下旬でもまだ-10℃の凍結には耐えられる。したがって,北関東では春に凍害をうける可能性はすくない。

6)水戸ではスギの伸長は10月下旬に停止し,11月はじめ頃までに越冬芽を形成しまもなく休眠に入る。この時期が冬仕度の第一歩で,はじめて-5℃の凍結に耐えられるようになる。

7)初冬,-10℃の凍結に耐えられるようになったスギの幹の基部を10日間にわたって1日8時間以上23℃に保ったスギでは耐凍度が低下し,4~6時間,23℃に保った幹では耐凍度の低下は認められなかった。こうしたことから,日照時間が長く20℃以上の高い温度に長くさらされているスギでは初冬に幹の基部の耐凍性の増大がおくれ氷点下の冷え込みで害をうけるものと考えられる。

8)伸長停止後,24(日中)~19℃(夜間)の日周温度にさらされたスギの耐凍性は高まらなかったが15℃以下の温度にさらされたスギでは耐凍度は処理時間とともにしだいに高まった。とくに,日中10~15℃,夜間0℃近い低温にさらされたスギでは耐凍度はいちじるしく高まった。しかし夜間0℃近い低温にさらされても日中20℃以上の高い温度におかれたスギでは耐凍度はむしろ低下した。なお,耐凍性がかなり高まったスギでは-3℃で凍結状態においたとき耐凍性が最も高まった。

9)スギの休眠覚醒には低温が必要であり,自然休眠は水戸では1月上旬に破れる。休眠が破れたのちも耐凍度は増大しつづける。耐凍度が最高に達し,自然休眠が破れたスギでは凍結状態におかなければその高い耐凍度を保持できない。休眠が破れ早春,耐凍性が減少し始めたスギを-3℃または-5℃でハードニングすると耐凍度は再び高まった。

2.スギの凍害防除法

 スギの凍害及び耐凍性の研究から,つぎのような実用的な防除方法が考えられる。

1)樹下植栽による凍害防除

 アカマツを前植し,その下にスギを植栽することで,凍害を防除できる。上木の林冠により低温を緩和させ,最高気温を低下させる。こうした条件下で樹下植栽されたスギの越冬芽の形成及び初冬における耐凍性の獲得は林外のスギにくらべて著しく早まる。

2)保護樹帯による凍害の側方防除(帯状更新法)

 林縁効果を利用するもので,林帯により,日射をさえぎり,可照時間を短縮する。したがって,樹下植栽とほぼ同様な効果がえられる。林帯を東西にとった場合,その北側の凍害防除効果は樹高の1.5倍までみとめられる。


3)寄せ植え.・遮光板によって日射をさえぎることにより凍害がかなり防除された。

4)耐凍性の高いスギの選抜

 全般的にみると表日本産のスギは裏日本産のスギより被害率が低い。また,スギの系統間でも耐凍性にかなりの差が認められた。こうした耐凍性の高いスギを植栽することにより被害を軽減できるものと思う。
 凍害のほか冬季の乾燥害(寒風害)を含めるとスギの造林不成績地はかなり多い。なによりも気象条件からみた適地に植栽することが必要である。造林不成績地を解消するためには耐寒性系統の苗木を植栽することが重要であるが,同時に前に述べた樹下植栽,保護樹林帯の利用等の造林技術とのくみ合せが今後,重要となる。

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